倉庫 GC-2

□壊れた機械
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壁に叩き付けられる枕をぼんやりと眺めながら、ローワンは一人考えていた。
彼が意識を取り戻したのは今から一年ほど前のこと。
自分のことを何一つ覚えていなかった彼は、リハビリより先に記憶の回復を優先するよう言い渡された。
最初はそれを理不尽だと感じだものだったが、話を聞くうちにだんだん納得していった。
ローワンはクーデターの中心的位置にあり、処刑されても何ら不思議はない罪人。同じく中心人物であった桜満春夏なる人物は既に処刑されており、彼もいずれは同じ結末を辿るであろうことは明白だった。
彼が健康になる必要はなく、肝心なのは情報を吐き出すことだけ。
容態が落ち着いてからは、毎日写真や新聞を見るよう強要された。
それでも彼が記憶を取り戻すことはなく、痺れを切らした人間達は今回の移動を敢行した。

彼は最初、ダリルに対して「はじめまして」と口にした。
実際、記憶をなくした彼にとって、ダリルとの対面は初めても同じだった。
けれど彼は知っていた。ダリルが自分と親しい人間であったことを。
この病室に移動する前、彼は事前にその事実を知らされていた。
にも関わらず他人行儀な挨拶を口にしたのは、彼なりの決意の表れだった。

ダリルは先のGHQ指令を殺した張本人。
他にも数々の法を犯し、そこ罪は銃殺刑にも値する。
そんな彼が生かされている最大の理由が、ローワンに対する“人質”だった。
彼が目を覚ませば、ダリルを人質にして情報を得る。そんな手筈だったと職員がぼやいていた。
だがローワンは都合よく全てを忘れ、ダリルに人質としての価値はなくなった。
故に職員は、ダリルにもう一つの役割を与えた。
それが記憶を取り戻す手助け。

「本当に、くそったれ、だな」

ローワンは小さく零し、窓の外に視線を移した。

「馬鹿馬鹿しい」

もし彼が全てを思い出せば、彼もダリルも用無しだ。
自ら死期を早める愚行を、一体誰が冒すだろう。
だから彼は決めたのだ。
絶対に思い出すまいと。
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