倉庫 GC-2

□壊れた機械
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全てが終わったその後で、捕らえられたダリルはある施設に護送された。
病院でも刑務所でもないその施設には、あの事件に関わった元アンチボディズやダァトの面々が治療という名目で収容されている。
そこでは数日に一度尋問が行われるものの、投獄されることもなく、まるで入院患者のように施設を自由に歩き回ることが出来た。
一応は病院という形をとっているらしく、部屋も病室そのものだ。
ダリルは特に深刻な病気や怪我もなく、施設で怠惰な生活を送っていた。
そんな彼のもとに、それは突然やって来た。

「ダリル・ヤン、今日からお前と同室になる、アンドレイ・ローワンだ。仲良くするように」

雀の囀ずる早朝から、施設の職員はダリルに爆弾を落とした。
車椅子に乗り、どこかぼんやりとした顔をするローワンを連れて。
てっきり死んだものと思っていたローワンとの再会に、ダリルは言葉を失った。

「こいつは怪我の後遺症で記憶のほとんどが吹っ飛んでいる。当然、第二次ロスト・クリスマスの記憶もない。ダリル・ヤン、お前には、その記憶を取り戻す手助けをしてもらう」

続けられる言葉も、ダリルの耳には入らなかった。
彼はただ呆然と、現れた非現実に目を見開いているだけだった。

「ほら、挨拶はどうした」

職員に小突かれ、車椅子の背に持たれていたローワンが頭を持ち上げる。
そうしてダリルに焦点を合わせると、彼はふっと柔らかな笑みを浮かべて言った。

「はじめまして」





ダリルの部屋には元々4人分のベッドが備え付けられている。
彼が使っているのは左の窓際。窓の外の桜が一番綺麗に見える場所だった。
ローワンはその向かい、右の窓際を使うことになり、早々に荷物が運び込まれた。
彼の荷物はそう多くない。
着替えと数冊のノートと万年筆。それだけだ。
外部との通信を遮断するためか、この施設では収容された人間が端末を持つことは許されていない。故のノートと万年筆。
ローワンはそのノートに、自分が思い出したことを記すよう義務付けられている。
おそらくは、クーデターの中心人物の一人だった彼から情報を得ようというのだろう。

「くそったれ!」

ダリルはそう毒吐き、自分の枕を床に叩き付けた。
彼が癇癪を起こすのも数年ぶりのこと。
あの事件以来何事にも関心を抱けずにいた彼にとって、これは久方振りの憤怒だった。

「物に当たるのはよくないぞ」

怒りの理由も理解せず、ローワンはベッドの上から素っ気なく声を掛ける。

「うるさいな!!アンタは黙ってろよ!」
「そうは言うが――」
「黙ってろって言ってんだよ!!!」

記憶のほとんどが吹っ飛んでいる。
その言葉を裏付けるように、ローワンは自分のことをほとんど覚えていなかった。
彼が知っていることといえば、自分の名前とこの施設にいる理由くらいのもの。それも全て施設で教わったことだ。
そしてこれも後遺症なのか、彼はあまり物事に関心を持たなくなっていた。
会話は最低限。ダリルのことに興味はなく、ノートに向き合っては音もなく何かを呟いている。
世話焼きの苦労人だった彼の姿は、もう見る影もない。
それが寂しくて、腹立たしくて。ダリルはベッドから飛び降り、床に転がる自身の枕を力一杯蹴り飛ばした。
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