倉庫 GC-2

□聖夜のその前に
1ページ/1ページ

花壇に花を植えた。
今は草のようなその花は、やがて木になるのだという。
まだ雪の深いこの季節に咲くこの花が、彼はそれなりに好きだった。

「何を植えているんだ?」

土を手で固めていると、不意に正面から男が声をかけてきた。
真っ黒な傘をさして、焦げ茶色のコートを着た男だ。
傘には薄く雪が積もり、傾けるとばさばさと地面へ落下していった。

「綺麗な花だな」

男は腰を屈め、彼の上に傘を差し出しながら花を見下ろした。

「何という花なんだい?」
「ユリオプス・デージーだよ」

手を叩いて泥を落としながら、彼は男に答えた。

「寒さに強い花だから、雪が降っても傘なんていらないんだ」

そう言って顔を上げた彼は、そこで初めて男の顔を見た。

「それで?アンタは何してんの?」

通りすがりの見知らぬ誰かなどではない。
彼はその男をよく知っていた。

「寒いと傷が疼くって、部屋に引きこもってたのは誰だったっけ、ローワン?」
「折角こんなに雪が積もったんだ。じっとしているのも損じゃないか」
「ガキじゃないんだから……」

傘を閉じてくすくすと笑うローワンに、彼は肩を竦めて立ち上がった。

「ダリル、雪合戦でもしようか」
「はぁ!?やだよ!」

年の割に子供のようなことを言い出すものだ。
ダリルは露骨に嫌な顔をし、ローワンに背を向けた。
刹那、ぼすっという音と共に、彼の後頭部に雪玉が直撃した。

「ちょっ!なにす」

怒り振り返った顔にもう一撃、どこに隠していたのか、雪玉が容赦なくぶつけられる。

「先手必勝だ」

ローワンは足元の雪を手のひらいっぱいに掴み、にやりと彼に笑って見せた。
対するダリルもまだ子供。頭から雪を零しながら、青筋を浮かべて頬をひきつらせた。

「……いいさ。やってやろうじゃん」

12月24日。
聖夜の前に、聖戦が始まる。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ