倉庫 GC-2

□四ノ刻 自覚
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映写室も調べ終わり、ダリルはまた先へ進むことを決めた。
流石に荷物が増えたため、転がる箱にアルバムとカメラを入れて小脇に抱え、ライトと端末を手に歩き出す。
端末の地図によれば、この先は柵の廊下と名の付く一本道。そこを抜ければ社を封じた中庭という物騒な名前の場所に出るらしい。
もはやあの背中は留まってなどいないだろうが、どうせ他に行く宛もないのが現状だ。
仮にダリルが本当に死んでいるのなら、何処へ行こうと行くまいと問題はない。

「たまには……追いかけっこも悪くないかな」

またあの背に追い付けたなら御の字と、彼はわかる範囲でその足跡を辿ることにした。
死んでしまったと考えれば、今更この屋敷の異質さに驚くこともない。
柵の廊下を抜けた彼は、目の前の光景にそんなことを思った。

「またここだよ、まったく……」

箱庭を囲む回廊と名付けられたそこは、枯れ木の回りに気味の悪い無数の人形が差されたあの中庭だった。空にはまだ月が浮いてる。
先刻訪れた際は右手南側の戸から入り、左手北側の大きな木戸を抜けた。
今回は西側の通路からの進入となる。
やはり回廊にあの背中は見付けられないが、今となっては然したる問題でもない。
ダリルはぶらりと右側に回り、階段を降りて枯木の根元まで歩み寄った。

「しっかし、薄気味悪い木だな」

改めて見れば、ますます異様な木である。
取り囲むように突き立てられた人形に気を取られていたが、木の幹にも一体の人形が括り付けられている。
雨ざらしのせいで傷みが激しく、紐で括られた胸部は擦り切れる寸前だ。
試しに指で突いてみれば、胸から下はボロリと朽ちて地面に落ちてしまった。
「あ」と呟き、ダリルはそれを拾うために膝を曲げた。
指先で慎重に摘まみ、はてどうしたものかと思案する。
その視界の隅に光るものを見付け、彼はまた地面を見た。

「ん?何だこれ」

ほんの僅かだが、地面から銀色の物が突き出ている。
爪先で掘り返すように地を蹴ると、ぼろりとそれが転げた。
拾い上げてまじまじと見れば、どうやらそれは鏡であるらしい。
泥に汚れた鏡面を拭うと、金髪の男の顔が朧気に写り込んだ。

「へぇ。あんまり変わってないじゃん」

ここへ来て初めて目にした自身の顔は、映写室で見た彼とほぼ変わりない。
意外なことと言えば、肌に生気があったことくらいだ。
死んだにしては血色の良い肌だ。寒さのせいか頬は僅かに上気して赤く色付いている。死後の世界にもリアリティーがあるものだと、ダリルは暢気に感心していた。
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