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□蛟の喰らう夜
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的場静司は妖祓いの名門・的場一門の頭首である。
彼の特徴と言えば右目を隠す包帯。かつて妖に「仕事を手伝ったら右目を喰わせる」と約束した先祖がその約束を果たさなかったため、以来代々的場の頭首はその妖から右目を狙われる定めにある。
加えて彼の右目は妖との契約を破った証となり、そのためまともな妖や高貴なものと契約することが出来なくなった。
そんな彼の唯一従順な式が田沼要である。
要は他の式とは違い、的場静司という人間を慕って式になった変わり者である。
何を気に入ったのか出会ったその日から的場の命を救い、仕舞いには自分の本名を教えてしまった。
式になってからも的場を「主様」と慕い、健気に彼に付き従っている。
だが的場はというと、必ずしもそれを快く思っているわけではない。



それは数日の後のこと。
祓い屋の会合に赴くことになった的場は、要を連れて屋敷へと顔を出した。
要はまだ先日の術者を警戒しているらしく、珍しく会合に付いていきたいと我儘を言い出した。的場としては護身用に比較的強い式を連れ歩くのが常だったが、この日ばかりは要の同伴を許した。

「いいですか。お前は力が弱いのだから、人間の振りをして術者を探しなさい。見付けても一人で対処しようとは考えず、必ず私に知らせに戻ること」
「はい、主様」

非力な要では、プロの祓い屋に対抗することは出来ない。
逃げられるならまだ良い方で、運が悪ければ祓われてお仕舞いだ。
決して無謀な行動はするなと念を押す的場に、要はしっかりと頷いて見せた。

「主様という呼び方も禁止です。ここではお前は“一門の見習い”の田沼少年です。私のことは名前で呼びなさい」
「わかりました、的場様」
「“的場さん”」
「……はい、的場さん」

普段顔を隠しており、会合にも姿を見せない要は、同業者からほとんど顔を知られていない。人間と大差ない容姿も幸いし、一門の者と嘯いて潜入させるには最適の人材だった。

「それでは、田沼君。検討を祈ります」
「的場……さん、も気を付けて」

的場は一足先に、会場へと入っていく。
要はその背を見送ると、少しの間を開けて同じく会場へと潜り込んでいった。

 
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