倉庫 GC-2

□バレンタインの悲劇
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ある早朝のことである。
いつもと何ら変わりなく出勤してきたローワンは、珍しく受付の女性達に引き留められた。

「大尉、あの……これ!」

恥じらう乙女のようにして彼女達が差し出したのは、真っ赤な包装紙に包まれた小さな箱。
ハート型のシールが貼り付けられ、いかにも女性らしい愛らしさを見せている。
だがローワンからすれば、それを渡される意味がわからない。

「これを……どうすればいいんです?」

誕生日でもない今日、こんな愛らしいものを貰うようなめでたいことがあっただろうか。
首を捻る彼に、受付嬢達は声を揃えて叫んだ。

「ヤン少尉に渡してください!!」

どうやらこれはローワンにではなく、ダリルに宛てた贈り物らしい。
彼もまた誕生日でもないのにと思ったものの、彼女達の表情は真剣そのもの。
本来上官が請け負うようなことではなかったが、ローワンは持ち前のお節介で快くそれを引き受けた。

「どうにか少尉に受け取ってもらうよ」
「あ、ありがとうございます!」
「助かります、大尉!」
「お礼にこれ、受け取ってください!」

受付嬢達は目を輝かせ、彼に小さなチョコレートを一つ手渡した。
ダリルへの贈り物に比べれば大分小さいが、駄賃程度には妥当なものだ。
ローワンはそれを口の中に放り込むと、頻りに頭を下げる彼女達に手を振って職場へと向かった。





彼が着いてたっぷり1時間後、ダリルはうんざりした顔でローワンの前に姿を現した。

「おはよう、ダリル少尉」
「……オハヨーゴザイマス」

朝から嫌なことでもあったのか、彼の機嫌はすこぶる悪い。

「何かあったのか?」
「別に……。朝からゴミ虫共がまとわりついてきただけだよ」
「?」

受付嬢達の贈り物と何か関係があるのだろうか。
ますますわからないと困惑しながら、彼はダリルに例のものを差し出した。

「はい、少尉」
「……は?」

真っ赤な箱を前に、ダリルは眉間に深い皺を刻む。

「君にプレゼントだよ」
「……え!?」

一拍遅れ、ダリルは真っ青な顔をして大きく一歩退いた。

「アンタ何考えて―――!ま、まさかッ、アンタ、そっちの気があったわけ!?」

人様を指差して唾を飛ばすダリルに、ローワンは差し出した箱に視線を落としながら眉尻を下げた。

「受付の女性陣から預かってきたんだけど……何か不味かったか?」
「――預かった?」

ぴたりとダリルの動きが止まる。

「ああ。君に渡してほしいって」
「…………」

向けられていた指が下ろされ、ローワンは彼に一歩近付く。

「ところで少尉、今日は何かめでたいことでもあるのかい?」

改めて箱を差し出し、ダリルの手に無理矢理それを握らせる。
刹那、ダリルは顔を真っ赤にして、ローワンの顔に箱を投げつけた。

「紛らわしいんだよ!!」

そのまま彼の脛を蹴り飛ばし、脱兎のごとく走り出す。

「死ね!ハゲ!メガネ!」

負け惜しみのようにぶつけられる罵声に、ローワンは首を捻りながら落ちた箱を拾い上げた。

「結局、今日は何の日なんだ?」
 
 

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