倉庫 GC-2

□六ノ刻 海
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重い扉を押し開けると、続いていたのはやはり一本道だった。
端末に表示された現在地は終ノ路。
板張りの橋になっているその道は、下にゆったりとした流れの川を抱いていた。
川の水面には無数の灯籠が浮かび、道の先へと静かに流されていく。
それらに灯る仄かな明かりが、剥き出しになった岩肌を蒼く照らしている。
綺麗な場所だ。ダリルはそう思った。
これまで通ったどの場所よりも、この空間は居心地が好い。
もの悲しくはあるが、不思議と心が鎮まっていく。
きっと黄泉路も終わりが近いのだろう。
彼は直感的にそう感じた。

きしり、きしり。
底板を踏み鳴らし、ダリルはゆっくりと前に進む。
遮るものの何もない道であったが、その中程には小さな祠があった。
何か祀っているのだろうか。
彼はふっとそちらにライトを向け、覗き込むように身を屈めた。
祠は観音扉に錠前が掛けてあり、中を確認することは出来ない。
鍵も、錠前を壊せるような道具もなく、代わりにその根元には薄汚れた帳面が一つ、投げ捨てられたように転がっていた。

「なんだ、これ?」

拾い上げると、帳面はぼろりと崩れて床に散る。
幾つかのページはひらひらと川の中へ飛び込み、滲んで波間に消えてしまった。
残ったページも状態は悪く、毟り取ったような跡が見てとれる。
ダリルは今度こそ崩れないように慎重にページを捲り、その紙面に目を落とした。

過去に何度も捲られたのか、最初のページは曲がって癖がついている。
書かれた字は丁寧で、文章も理論的だ。

『あの世との狭間にあるせいか、あまり記憶がはっきりしない。大事なことを忘れないために、このノートに書き残すことにする』

この帳面の持ち主は、この場所が黄泉路であることを理解していたらしい。
そして何かを為すために、わざわざ筆を取ったのだろう。
次のページは外れてしまっているため、ダリルはその次のページに目を向けた。

『始めより、人の気配が増えつつある。彼の存在に気付いたのは私だけではないらしい。彼を恨んで死んでいった者達が、彼の姿を探している。殺させはしない。絶対に』

帳面の持ち主は、この時点で誰か知り合いを見つけたようだった。
そしてこの主の他にも、“彼”と称された誰かを知るものがいたようだ。
気になるのは最後の方。
“殺させはしない”ということは、黄泉路の只中に生者がいたというのだろうか。
或いは命の他に何かを奪い去るという意味か。
考えてもわかるはずはなく、ダリルは更にページを捲った。
 
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