倉庫 GC-2

□終ノ刻 約束
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橋を渡り、片腕で木の扉を押し開ける。
刹那、気圧の差で向こう側の空気が一気に吹き付け、ぶわりとダリルの髪を一撫でした。

「っ!」

彼は咄嗟に目を瞑り、押し寄せる風圧に息を詰める。
やがてうっすらと瞼を開けると、ふわりとある香りが鼻先を擽った。

「これ……」

懐かしい香りだ。
そう遠くない過去に、彼はこの香りを嗅いでいる。
果たして何処で嗅いだものか。
ぼんやりと思案しながら、ダリルは扉の隙間を潜った。
その時である。
ろくに足元も確かめず一歩を踏み出した彼は、眼下にある段差に気付かず見事に足を踏み外した。

「うぎゃあ!」

無様な悲鳴をあげ、辺りに荷物をぶちまけ尻餅をついた。

「いたたたた……」

打ち付けた臀部がじんじんと痛み、熱いとも冷たいともつかない感覚を伝えてくる。
そこを庇うように手を回した彼は、その時初めて己の下肢が濡れていることに気が付いた。
不審に思い下を探れば、指が水を掻く感触がある。
地面はさらさらとした砂に覆われ、水位は足首の高さにまで達している。
脇を流れていく灯籠を見るに、先ほどの川と繋がっているのだろう。
嵩が低く流れが穏やかになった川面には、流れ着く灯籠が列を成してその場を明るく照らしている。
もはやライトを着けずとも、岩壁の隅までがよく見える。
端末の地図によれば、この場所は涯ノ淵であったはず。
入り口から見て正面に石造りの祠のようなものがあり、その両脇に水の流れ出る水路らしきものがある。
人の進む道は見当たらず、どうやらここで行き止まりのようだった。

「やっぱり海なんてないじゃん」

道を間違えてしまったのか。
ダリルは落胆し、座り込んだまま膝を抱く。

「もう、疲れたなあ……」

自身でも気付かぬうちに、心の何処かで期待していたのだろう。
この道を進み、海に出ることが出来たなら、追い付けなかったローワンの背中にも触れることが出来るのではないかと。
だがその道もここで絶え、可能性は一つ潰えた。
ダリルは両膝の間に顔を埋め、長々と溜め息を吐いた。
 
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