倉庫 GC-2

□僕のともだち
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「ダリル、お前にプレゼントだ」

久し振りに帰ってきた大好きな父は、その日、ダリルに大きなお土産を持ってきた。

「独立思考型エンドレイヴ操縦補助装置試作1号機。まあ簡単に言えば人型ロボットだ。暫く人間の思考パターンを学習させるために、我が家で預かることになった」

幼いダリルにはよく意味がわからなかったが、新しい玩具を与えられたことだけは理解できた。

「パパ、これ好きにしていいの?」
「ああ。ただし、対等の人間として扱うんだぞ。これはお前の友達だ」

父はダリルに念を押し、玄関先にじっと佇むロボットの手を引いた。

「さあ、挨拶を」

するとロボットは人間と見紛うばかりの滑らかな動作でダリルの前まで進み、穏やかな笑みを浮かべて彼の前にしゃがみ込んだ。

「はじめまして、小さな司令官」

見た目はどこにでもいる普通の青年。
茶色い髪に碧の目をして、ロボットであるにも関わらず眼鏡をかけている。

「パパ、これ本当にロボットなの?」

とても機械だとは思えない完成度に、ダリルは不安げに父を見上げた。

「勝手に僕のおやつ食べたりしない?玩具を盗ったりしない?」

子供の愛らしい問いに、答えたのはロボットの方だった。

「司令官のご命令であれば、それらに一切手を触れないことをお約束します」

眼鏡の奥の瞳が、真っ直ぐにダリルを見詰める。

「――だそうだぞ、ダリル」

父がダリルの顔を覗き込み、どうするかと暗に尋ねる。

「………わかった」

ダリルはこくりと頷くと、自分を見詰めるロボットに向き直った。

「ねえ、アンタの名前は?」
「独立思考型エンドレイヴ操縦補助装置試作1号機。研究所ではrobotのR、試作1号機の1をとってR-1(アールワン)と呼ばれていました。愛着もない呼び名でしたので、ここでは司令官のお好きなように呼んでいただいて構いません」

イントネーションもアクセントも完璧だったが、息継ぎを必要としないロボットの長台詞は聞いている方が息苦しい。
ダリルは知らぬうちに息を止めてしまい、ロボットの言葉が途切れると思い出したように息を吸った。

「パパ、このロボット息してないよ」
「仕方ないさ。ロボットだからな。上に要望は出しておこう」

父は豪快に笑い、ダリルの頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「ほら、ダリルも挨拶をしなさい」

促され、ダリルは渋々ロボットの前に手を差し出す。

「ローワン」

投げ掛けられたその言葉に、ロボットは怪訝な顔をして固まった。

「……失礼ながら、司令官のお名前はダリル・ヤンだと思われますが?」
「は?違うよ。僕じゃない」

ダリルは呆れた様子で首を振り、差し出した手でロボットの顔を指差した。

「アンタの名前」

好きに呼んでいいのだろうと尋ねると、ロボットはまた僅かの間だけ固まった。
これがこのロボットの思案する際の動作なのだろう。
考えは5秒ほど経った後に纏まったようで、ロボットは固まった表情をゆっくりと笑みに変化させていった。

「ローワン……ありがとうございます、司令官」

新しい名前を気に入ったらしい。
ダリルはほっと息を吐き、改めて彼に手を差し出した。

「それと、僕のことは司令官じゃなくてダリルって呼べよ。友達なんだろ?」

握れば潰してしまいそうな小さな手。
ロボットはその手を取ると、顔面にお手本のような笑顔を貼り付けて言った。

「ああ。よろしく、ダリル」

その日、ダリルに初めて友達ができた。

 
 

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