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□目を背けてはいけません
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『今日の最下位は――残念、蟹座のアナタ。大切なものに別れを告げる日になるでしょう。でも大丈夫。ちゃんと思いを伝えれば、最後は笑顔になれるはず。ラッキーアイテムはバスケットボール。それでは皆さん、よい一日を』

年が明け、三箇日も最後となった朝、緑間のもとへ赤司が見舞いに訪れた。

「明けましておめでとう、真太郎」

緑間が光を失って初めて聞く赤司の声は、何処と無く棘があるように感じられた。
ウィンターカップに出なかったことを怒っているのか。緑間は滲み出る唾を飲み込むと、意を決してその話題に触れた。

「ウィンターカップ、優勝したそうだな」

今年の優勝は洛山。準優勝が桐皇。
緑間を欠いた秀徳は、健闘及ばずベスト8に終わったと聞く。

「……ありがとう。でも残念だな。真太郎には僕の口から直接伝えたかったのに」
「文句なら高尾に言うのだよ。あいつが一人で勝手に喋っていただけだ」

試合を見ることの出来ない緑間は、結果の全てを高尾から聞いていた。
誰がどんな活躍をし、どんな顔でコートから去っていったか。
聞いてもいないことを逐一報告しては、また一緒にバスケがしたいと騒ぎ立てたものだった。
その話を聞いた赤司は眉を寄せ、まさかと言いたげな表情で緑間を見た。

「高尾……?」

緑間はその表情に気付くことなく、どこか楽しげに赤司の問いに答える。

「ああ。あいつも大概暇人なのだよ。毎日飽きもせず見舞いに来る。そういえば、今年は秀徳とは当たらなかったのか?高尾がリベンジしたかったと騒いでいたぞ」

まだ緑間の目が見えていた頃、高尾は赤司へのリベンジに燃え、連日アリウープの練習を行っていた。
今度こそ止めさせはしない。そう意気込んでいたのを覚えている。
結局緑間が舞台から降りたことで、二人でのリベンジは敵わなくなったのだが。

「そうか……彼はまだ……」

赤司は物憂げに呟くと、緑間の机に飾られた写真立てに目を向けた。
枠に収まっている写真は、おそらく昨年に撮られたものだろう。
緑間にのし掛かってブイサインを突き出す高尾と、それを笑って見ている木村、呆れ顔の宮地に、なんとも言えない顔をした大坪が写っている。
懐かしく微笑ましい、失われた過去の風景。
それを目に焼き付け、赤司は己の心の内に覚悟を決めた。

「真太郎、お前はいつまでそうしているつもりだ」
「……?何を言っているんだ、赤司?」
「いつまでそうやって、現実が見えない振りをしているのかと聞いているんだ」

緑間がそれを望まなくても、赤司は彼に知らしめなくてはいけない。
かつての主将として。
そして大事な友人として。

「彼が死んでもうすぐ半年だ。そろそろ解放してやるべきじゃないのか」

緑間はこてんと首を傾げ、赤司のいるであろう方向に顔を向ける。

「死んだ?誰が死んだのだよ?」

赤司はその顔をしっかりと見据え、凜とした声音で言い放った。

「高尾和成だよ」
 
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