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□目を背けてはいけません
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「は?」

緑間は眉を顰め、呆れたように言葉を返した。

「赤司、今日はエイプリルフールではないのだよ。第一、あれが死んでいるのなら、ウィンターカップの結果など知りようがないだろう」
「そうだな。確かに彼はまだお前の側にいるんだろう。だが真太郎、それはお前が逃げ続けてきたからだ」

高尾和成は死んだ。
インターハイが終わって間も無く、交通事故というありふれた悲劇によって。
その一報を黒子から聞かされた時、赤司は何かの冗談だと思った。
ホークアイという特殊な目を持つあの高尾が、自分に迫る車に気付かないとは考え難かった。
だが現実に高尾は死んだ。
偶然にも、黒子はその様子を火神と共に歩道橋の上から目撃していたという。
高尾を揺さぶる緑間を火神が抑え、黒子が救急車を呼んだが、もはや手遅れだった。
高尾は一度も目を開けることなく、緑間の腕の中で息絶えた。
緑間の目が光を失ったのは、その日の夜のことだった。

「道理で治す気がないわけだ。治せば受け入れなくてはならなくなる。彼がいない世界を」

おそらく緑間は高尾の死を否定して視力を失った。高尾のいない現実から目を背けるために。それが赤司の見立てだった。
緑間はそれを、悪趣味な冗談だと吐き捨てる。

「いい加減にするのだよ。高尾が死んだ?馬鹿を言うな。いくら俺の目が見えずとも、そんな嘘には引っ掛からないのだよ」

その答えも現状では想定の範囲内。
頑として認めない彼を、赤司は今すぐ説得しようとは思っていない。

「君の相棒はいつも見舞いに来るんだったな」
「ああ」
「だったら聞いてみるといい。彼は本当に高尾和成なのか。本当に生きているのか」

どんなに言って聞かせても、緑間自身が認めなければ意味がない。
理解し、納得し、現実を受け入れなければ何も変わらない。

「またコートの上で戦える日を楽しみにしているよ」

赤司はそれだけ言い残すと、早々に京都へと帰っていった。


そして今日も、高尾は緑間のもとへ現れる。

「ちわーっす。真ちゃん起きてる?」

一日振りに会う高尾は、やはり変わらず高尾だった。

「聞いてよ真ちゃん、今日そこで赤司見かけたんだけどさー」
「赤司なら家に来たのだよ」
「へぇ、見舞いに来てくれたんだ?」
「どうだろうな」
「何々どったの?赤司と何かあった?」

含みのある緑間の言葉に、高尾は興味津々だ。
とても死んでいる人間の言動とは思えない。
やはり赤司の言葉は質の悪い嘘だった。そう確信し、緑間は安堵と共に高尾に返した。

「お前が死んでいるなどと、ふざけたことをぬかしていたのだよ」

きっと次の瞬間には、高尾は腹を抱えて笑い転げるのだろう。
そう思っていた。

「何言ってんだよ、真ちゃん」

けれど、高尾は笑わなかった。

「そんな当たり前のこと、ずっと忘れてたの?」

酷く平淡な声音で、彼ははっきりとそう言った。
 
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