倉庫 GC-2

□こっちへおいで
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その日、東京には台風が迫っていた。
本国で経験したものに比べれば幾分か小さいが、この国ではかなり危険な域にまで発達した“大型で猛烈”な台風だった。
駐留するGHQには外出禁止令が出され、その時点で施設に残っていた者は待機を命じられた。
幸いダリルはローワンの運転で帰宅の途にあり、施設に缶詰にされることはなかった。
だが問題はそこからである。
寮に戻ってみれば、辺りは驚くほどに真っ暗闇であった。
車のエンジンを切ってしまえば、隣に座る相手の顔もわからない。
それが停電によるものだと気付くまでに、そう時間はかからなかった。

「どうする?引き返すか?」
「無理でしょ。橋封鎖されたし」

天気はどんどん悪くなり、打ち付ける雨粒は流れる向きを変えていく。
外出禁止令が出た以上、これからふらふら出歩くわけにもいかない。
二人は渋々現状を受け入れ、真っ暗闇の寮へと足を踏み入れた。

停電して暫く経つのか、冷房の止まった寮内はじっとりと湿気て蒸し暑かった。
窓を開ければ暴風雨。涼を求めるには厳しい環境だ。非常灯に照らされた廊下には、団扇を片手に缶ビールを飲む人影が多く見られた。
そんな有象無象を掻き分けながら、二人は自室を目指し暗い廊下を進んでいく。
普段ならばエレベータを使うところだが、生憎今は動かない。従って、使い慣れない階段をえっちらおっちら登っていくはめになった。
窓の外では、いよいよ勢いを増した風雨が硝子を打ち破らんばかりに吹き付けられている。ガラガラと音をたてて転がるのは、外に設置されていたゴミ箱だっただろうか。

「この調子じゃ、アンタの車、明日にはボコボコになってるかもね」

ダリルが口にした軽い冗談も、その時は冗談で済まされないほどに現実味を帯びていた。
 
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