倉庫 汎用

□化け物の檻
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流木野サキを拘束してすぐ、彼女の身柄は指揮官であるカインのもとへ移された。
その後尋問を行うものだと考えていたアードライは、直後に行われたあの衝撃的な報道に我が目を疑った。
捕虜の殺害、そして蘇生。
悪趣味な手品を見せられているようだった。
そして何より、化け物と呼ばれた彼女の悲しげな瞳が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
それ故に彼はこの雑務を請け負い、単身化け物の待つ独房へと足を踏み入れた。

鉄格子の中を覗き込むと、流木野サキは独房の隅に座り、両膝を抱えて踞っていた。

「起きろ、食事だ」

試しに声をかけてみると、綺麗な菫色の瞳がアードライを一瞥し、すぐにふいっと逸らされる。

「いらない。食べたくない」

返された声は消え入りそうなほど小さく、テレビで見るより覇気がない。

「私、不死身の化け物なのよ。食べなくたって、きっと死なないし」

きっと、と言うからには、彼女自身も試したことはないのだろう。
アードライは小さく溜め息を零し、食事の乗ったトレイを床に置いて自身もその場に腰を下ろした。

「飢える飢えないはともかく、腹は空くのだろう?」
「…………」
「食べられるのなら食べておけ。少しは気も紛れる」

床と鉄格子の僅かな隙間から、押し込むようにしてトレイを中に入れる。
水入りのペットボトルは通らなかったため、格子の中に手を入れて独房の床へと投げ落とした。

「…………」

ペットボトルは床を転がり、サキの爪先に当たって止まる。
彼女は暫くの間黙ってそれを見下ろすと、やがて諦めたように拾い上げ、中の水を一口飲んだ。

「……ねえ」
「ん?」
「あの子、どうしてる」
「あの子?」
「カーツベルフ」
「……ああ。元気にしている」
「そう……」

彼女が操ったというカーツベルフ少年は、事情聴取の後にカルルスタインへ帰された。
未だ些(いささ)か混乱してはいるものの、体の方は至って元気だ。
ただ一つ悲しむことがあるとするなら、カーツベルフはアードライのことを全く覚えていなかった。道中で話したことも、全て。

「私と行動していたあれは、カーツベルフではなかったのだな」
「…………」
「エルエルフの策か?」
「……途中までは」

サキは言葉少なく返し、ペットボトルの蓋をくるくると指先で弄ぶ。
やがてもう一度水を口に含むと、彼女は顔を上げてアードライを見た。
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