倉庫 汎用

□そして彼等の大団円
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黒塗りの外国車に詰め込まれ、アードライ達が大学を脱出したのは1時になろうかという頃。
都心の混んだ道程を巧みに通り抜けながら、一行は空港を目指して進んでいた。
道中これまでの住まいに立ち寄り、ついでにと土産の菓子も揃えた。
派手な車は街で浮いたが、この国で過ごす最後の日だ。多少のことは気にも留めなかった。
ふと車内から後方を見れば、様々な車が彼等の後を追い掛けてくるのが見える。
空には騒々しくもヘリコプターが飛び交い、付かず離れず上空から追跡を続けている。
それらからの中継は公共の電波を伝い、ハーノインの手にした携帯電話にも映像として届いていた。

「見ろよ。ヘリが5台に、尾行の車が大渋滞。案外俺達人気者だな。手でも振ってみるか?」
「好きにしろ」

テンションを上げるハーノインに溜め息を零し、エルエルフはアードライに目を向ける。

「良かったのか?」

何が、と口にするまでもない。
アードライは外を眺めていた視線を引き戻し、エルエルフを見てゆっくりと頷いた。

「世間に公表することで、彼女は逃げ道を失うだろう。そうなれば嫌でも向き合うはずだ」
「性格が悪くなったな」
「お前に似てきたんだろう」

サキのアイドル生命に傷を付けると知りながら、アードライは彼女との仲を世界中に暴露した。
恋人でないとしても、売り出し中のアイドルが男と親しくしていた事実はファンへ影響を与えることだろう。
彼女の母は当然怒り、彼女を勘当するかもしれない。
だが、そんなことはアードライにとってどうでもよいことだった。
彼女は臆病な人間だ。逃げ道を塞がない限り、何処までも逃げていくことだろう。
故に彼は全てを明かした。
彼女に自分と向き合わせるために。

「執着が強いところはそっくりだな」

ハーノインが意地悪くエルエルフを笑い、

「何の話だ」
「リーゼロッテ姫」
「…………」

エルエルフは不快そうに押し黙る。
その様を黙って聞きながら、イクスアインは腕に嵌めた安物の時計に視線を落とした。
時刻は午後3時になろうかという頃。
寄り道をした割には早く着きそうだ。

「大分時間がありますが、空港に着いてからの御予定は?」
「サキが来れば彼女と話す。来なければ――寝るとしよう」
「クーフィアが寝かせてくれるとも思えんが」

アードライがおどけて返せば、横からエルエルフが鼻で笑う。

「暇なら挨拶の一つでも考えていろ。帰国したらすぐに空港で会見だ」

王太子であるアードライの、友達作りの猶予期間は既に終わっている。
成人となった彼は今や公人であり、たった一人の少女にうつつを抜かしていられる立場ではないのだ。

「最後まで面倒をかけてすまない。これからはまた別の苦労を掛けるだろうが、宜しく頼む」

今アードライに猶予を与えているのは、他ならぬエルエルフ達。
そのことに礼を言うと、彼等はそれぞれに得意気に笑った。

「今更だな」
「当然のことです」
「任せろよ、王子様」

そしてアードライもまた、口許に淡い笑みを浮かべて、

「ありがとう」

車は間もなく、空港に到着する。
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