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□不戦敗独占欲
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サキの首に提げられたペンダント。
その中に小さな写真が嵌め込まれていることを、アードライは知っている。
それがいつから彼女の胸元に輝いていたかは定かでないが、彼女が後生大事にしているその中身を、彼は一度だけ目にしたことがある。

「女々しくて未練がましいから、本当は誰にも見せたくなかったんだけど」

あの日彼女はそう言って、アードライにだけその中身をさらけ出した。
そこに納められついた写真を見て、彼は「ああ、そうか」と納得した。
綺麗に切り抜かれ、枠に嵌め込まれたそれは、今は亡き時縞ハルトの顔写真だった。
恐らくは学園生活の最中に撮られたものだろう。はにかみながら笑うその顔は、幼く素朴で温かだった。

「最初は確かに未練だった。こんな形でも、一緒に戦っていたかったの」

彼女は写真の彼を優しく撫でながら、穏やかな笑みを浮かべる。

「今は、彼に見ていてほしいから。みんなが少しずつ前に向かって進んでいる姿を、ちゃんと見ていてほしかったから」

裏切られても、罵られても、彼は仲間を守るために戦った。
記憶を失い、命まで失って。
そうして守られてきたものは、今も彼女と共に世界と戦い続けている。
決して諦めることなく、ただ前だけを見て。
その姿を、彼女は彼に見せたいのだと言う。

「そう、か」

そんな彼女を美しいと思う一方で、妬ましいと感じる心もアードライの内にはある。
きっと彼女はアードライが死んでも、その遺影を胸に抱えることはない。
共に戦うことはなく、意志を共にすることもない。
彼女を愛した一人の男として、それはとても屈辱的なことだ。
けれども彼はそんな感情をおくびにも出さず、淡く微笑んで彼女の髪を撫でた。

「強いな、君は」
「そんなんじゃないわよ」

サキは苦笑し、くすぐったそうに肩を揺らす。
その肩を抱き寄せて、彼は彼女の耳許で囁いた。

「サキ」
「なあに?」

己の死後に、彼女の中に生き続けるのが自分でないのなら、

「愛してる」

せめて生きている今だけは、彼女の心を自分のものに――





不戦敗独占欲
――――――――――
今だけは君と二人ぼっち

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