倉庫 汎用

□先立つあなたへ、遺された君へ
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流木野サキがアードライと最後に会ったのは、今から丁度半年前のことになる。
当時、還暦を間近に控えていた彼は、その歳になってもまだ忙しく戦場を駆け回っていた。
流石に前線に立つということはなくなったが、代わりに彼の率いる部下の数は出会った頃とは比べ物にならないほどに増えた。
次は地上で戦争だと語る彼の顔には、隠しきれない疲労の色が濃く浮かび上がっていた。
果たして、あれから彼はどうしているだろうか。そんなことを考えながら、サキは愛機カーミラから格納庫の床へと降り立った。

「流木野さん」

ヘルメットを外してすぐ、彼女に声を掛けたのは指南ショーコだった。
サキと同じくカミツキとなった彼女は、昔と何ら変わりのない笑みを浮かべてサキの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?浮かない顔してる」

何も考えていないようで、ショーコは鋭く胸の内を見透してくる。
お節介なその性分は、友人の苦悩を見逃すまいと懸命だ。
サキはその目を見詰め返し、諦めたように力なく苦笑を零した。

「なんでもない、って言っても無駄ですよね」

胸の前でヘルメットを抱え、ガラス面に写る自分の顔に目を落とす。

「最近、彼と連絡がつかなくて……」
「彼って、アードライさん?」

二人が出会って40余年。サキとアードライが親密な仲であることを知る者は存外多い。
良くも悪くも目立つ二人は、これまで絶えずネットの海の中で交際を噂されてきた。
ショーコも当然二人の関係性は古くから認識しており、なんとか二人の逢瀬の時間を作ろうと尽力したこともあった。
思えば最近は、そんな苦労もしていない。

「向こうも忙しい立場から、元々そんなに連絡はとってなかったんです。でも、こんなに繋がらないことは初めてで……」

互いに国を守る要の身。一月や二月であれば、連絡がつかないことは当たり前だった。
長ければそれが三ヶ月になることもあったが、戦場から戻ればすぐに連絡を取っていた。
しかし半年という長さは、流石の彼女も経験がない。
命のやり取りをする場に身を置くものとして、不安にならないはずはなかった。

「心配なら、会いに行ったらいいじゃない。また時間作っておくよ?」
「でも、面倒な女だって思われたくないんです」
「面倒なんかじゃないよ。好きな人が会いに来てくれるって、凄く嬉しいことなんだから」
「今何処にいるのかもわからないし……」
「エルエルフに聞いてみるから大丈夫!」

アードライとエルエルフはお互いに、サキよりも頻繁に連絡を取り合っている。
それは勿論二人が旧知の仲であるということも関係しているが、今の互いの社会的身分に因るところが大きい。
彼に聞けば、アードライの所在も自ずと判明するであろう。ショーコはそう確信していた。

「不安ならみんなで行こう?理由なら幾らでも考えるから。ね、アキラちゃん」
「うん」

ヴァルヴレイヴY号機から降り立った連坊小路アキラも、ショーコの言葉に首を縦に降る。

「流木野さんはもっと我儘になっていいんだよ」

ぐいぐいとショーコに背を押され、サキはついに折れた。

「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

その言葉に、ショーコは瞳を輝かせてアキラを顧みた。

「そうと決まればアキラちゃん、エルエルフにアードライさんの所在確認を宜しく!」
「任せて、ショーコちゃん」
「流木野さんは戻って朗報を待ってて。スケジュールがっつり空けてくるから」
「期待してます」
「よーし、頑張るぞー!」

フォーマルスーツの腕を捲り、ショーコは元気よく拳を天に突き上げる。
その笑顔が曇るのに、そう長い時間は掛からなかった。
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