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□団欒
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未だ誰の足跡も残されていない雪原に、ざくりとはじめの一歩を印す。
純潔の乙女を汚すような背徳的な快感は、この田舎で唯一楽しいと感じられる事柄である。
時真慎一郎が早朝から寒空の下に放り出された元日の朝、辺りは見渡す限りの雪景色であった。

「……寒っ」

何が悲しくて、新年早々苦行を強いられなければならないのか。
引き返したくなる気持ちを圧し殺し、慎一郎は嫌々浮島神社を目指す。

「何が初詣だ。あんな似非神社、詣でたところで何になるってんだよ」

全ては七原文人の指示。
メインキャストは否応なく浮島神社に集められ、一年のはじめを化け物と過ごすはめになる。
騒々しい求衛姉妹はいい暇潰しになると喜んでいたが、慎一郎は出来れば寝ていたかった。
寒々しい空に欠伸を零し、ざくりざくりと雪を踏み歩く。
目指す神社はもう目の前だ。



慎一郎が浮島神社に着いたとき、そこには既にメインキャストの面々が到着していた。

「やあ、おはよう」

白々しくも真っ先に声を掛けてきたのは、呼び出した張本人である文人。
慎一郎はそれを完全に無視し、本殿の前に立つ小夜のもとへと歩み寄った。

「時真さん!新年明けましておめでとうございます」

小夜はいつもと何ら変わりなく、鬱陶しいほど快活な挨拶を投げ掛けてくる。
そんな彼女の鼻先が赤くなっていることに気付き、慎一郎は手に持っていたカイロを彼女に差し出した。

「使え」

与えられた役柄からすれば、こうするのが正解だったはず。
ちらりと横目で文人を見れば、彼は慎一郎に微かに頷いてみせた。

「わあ!ありがとうございます、時真さん!」
「別に」

その行為が打算からであるとも知らず、小夜は無邪気に喜び頭を下げる。
双子は遠巻きにそれを囃し立て、逸樹は本気か演技かわからない嫉妬の視線を慎一郎に向けた。
非常に居心地の悪い場所だ。
こんな所からは早々に立ち去りたいものだが、当然そうはいかないのが小夜である。

「時真さん、折角ですから、皆さんと一緒にご飯を食べましょう!」
「いや、俺は……」
「いけません!お腹が空いては元気がなくなってしまいます。それに、今日は文人さんが御節を作ってくださったんです!とっても美味しいんですよ!」

有無を言わせぬ小夜のアプローチに、慎一郎は縋るように文人に目を向けた。
だが返される答えなど知れたこと。

「食べていきなよ、時真慎一郎君?」

慎一郎は溜め息を吐き、諦めたように頷いた。
 

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