倉庫 汎用

□愛された獣
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慎一郎が賢明な判断で大人しく帰路についていると、背後からまたワンと鳴く声がした。
振り返ってもろくなことはないだろう。彼にはそう想像がついたものの、沸き上がる好奇心には勝てなかった。
溜め息を一つ吐き、彼は渋々振り返る。

「うるせぇぞ、犬」

居たのはやはり犬とも猫ともつかない小動物。
彼がドスを効かせた声で吐き捨てると、それはまたしてもワンと吠えた。

「餌ならねぇよ。どっか行け」

ワン

「ワンじゃねぇよ」

ワン

「お前なぁ……」

話にならないのは当たり前だ。
何せ相手は動物なのだ。
慎一郎は肩を落とすと、犬らしき動物の前にしゃがみこんだ。

「いいか。俺はこの後、家に帰って待機するよう言われてんだよ。外出禁止。寄り道禁止。指示されていないことは出来ない。命が惜しいから俺は逆らわない。だからお前に付き合ってやることは出来ない」

ワン

「だからワンじゃねぇし。わかったらさっさと失せろ。蹴飛ばすぞ」

ワン

「…………はぁ」

交渉は決裂。
慎一郎はぼりぼりと頭を掻くと、説得を諦めて腰を上げた。

「わかったよ。勝手にしろ」

犬は一言ワンと応え、背を向けた慎一郎の足に擦り寄った。

「鬱陶しい」

慎一郎はぽつりと毒突いたものの、その腹を蹴飛ばしはしなかった。

 
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