倉庫 汎用

□愛された獣
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ワンと吠える声がして、時真慎一郎はふと顔を上げた。
現在の時刻は午後4時。丁度放課の時間を迎えたところである。
教室では求衛姉妹がきゃっきゃと騒ぎ立て、年頃の娘らしい陽気を振り撒いている。
そんな喧騒の中に在りながら、慎一郎は独り、鳴き声のした方へと視線を向けた。
窓の外に広がるのは長閑な田園風景。そこに人影らしきものはなく、代わりに在るのは一匹の小動物。
犬か猫か判然としないが、ワンと吠えるのだから犬なのだろう。
その犬は田畑と林の境の道で、林の奥を見上げながらまたワンと吠えた。
あの辺りに化物でもいるのだろうか。けれどそんな予定は、七原文人等からは聞いていない。
慎一郎は一頻り考えたものの、すぐに思考を放棄して席を立った。
君子危うきに近寄らず、である。

 
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