倉庫 汎用
□友情の値段
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町唯一のスーパーに寄ると、やはりと言うべきかクラスメイトに出会した。
「あ!逸樹ちゃんだー」
「うわぁ、珍しい組み合わせ」
惣菜コーナーの前で手を振るのは、見間違えようもない求衛姉妹だ。
「二人も夕飯の買い出し?」
「そうでーす」
「今日はカツ丼なんだよー」
逸樹が尋ねると、ののとねねは籠から弁当を取り出して自慢げに笑った。
籠の中にはその他にも、胃凭れしそうな菓子の数々が積み上げられている。彼女達の小さな体にこれら全てが飲み込まれるのだと思うと、逸樹は何とも言えない気持ちになった。
そんなこととは露知らず、双子はきゃっきゃと甲高い声を上げる。
「ねぇ、二人は何買うの?」
「まさか二人で鍋パーティー!?」
「あははは。そうだったらよかったんだけどね」
違うの?と尋ねてくる彼女達に苦笑を返し、逸樹は一際安い幕の内弁当を手に取った。
鯖の煮付けと金平牛蒡が添えられた、素朴で質素な弁当だ。
途端、双子は容赦ないブーイングを彼に浴びせかける。
「うわっ、地味ぃー」
「だから駄目なんだよ、逸樹ちゃんはー」
「そうかなぁ……」
内心傷付かないではなかった。逸樹は持ち前の演技力から乾いた笑いを漏らすに留まった。
演技力といえば、慎一郎は今も口数が少ない。この間一言も発さないのだから、まさか素が無口なのだろうか。
そんなことを考えながら、ふと彼はあることを思い出した。
「そうだ。二人共、学校で財布見なかった?」
「「財布?」」
双子は声を揃え、互いの顔を見合わせる。
「色は黒で、赤い線が一本入った長財布なんだけど……」
言いながら慎一郎に確認を取ると、彼はデラックス弁当を片手に首肯を返した。
奢りで遠慮しない彼の神経は、なかなかどうして太いらしい。
「昼まではあったらしいんだけど……。どこかで見掛けなかった?」
再び姉妹に視線を向ける。
彼女達は首を捻り、揃いのタイミングで頭を振った。
「あたしは知らない」
「あたしも知らない」
「そっか」
残念な答えではあったが、端から期待はしていなかった。
それは慎一郎も同じだったようで、興味もなさそうにそっぽを向いたまま、ついに双子と言葉を交わすことはなかった。
それからは誰と会うとこもなく、二人は会計を済ませて帰路についた。
交わす言葉は大してなかったが、険悪な雰囲気になることもなかった。
虫の音を聞きながら歩く道は、それはそれで趣のあるものだった。
やがて辿り着いた別れ道で、逸樹は彼に別れを告げた。
「気を付けて、また明日」
「おう」
慎一郎は軽く手を上げ、本の少しだけ表情を弛めてそう返した。