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□晩秋
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【鞆総逸樹の場合】


一面に広がる落ち葉の中から、とびきり綺麗な一枚を拾う。
それがこの季節の彼の習慣だった。
イチョウにカリンにケヤキにカエデ。様々な葉の中から虫食いのない一枚を選び、指で軽く汚れを払う。
赤く色付いた今日の一枚は、カエデの落ち葉のようだった。

鞆総逸樹がその習慣を身に付けたのはこのふざけたプロジェクトに参加してすぐの頃だった。
切っ掛けは、この地で初めて死を知ったこと。
死んだのは名も知らぬエキストラだった。
一度も言葉を交わしたことはなかったが、顔だけは知っていた。
その程度の間柄だったからだろうか。逸樹は枯れ葉一枚を川に流し手を合わせることで、名も知らぬ他人の死を悼んだ。
それから続けて人が死に、逸樹はその度に枯れ葉を川に流した。
数を重ねるうちに、出来るだけ美しい葉を選ぶようになった。
季節が変わっても、流すものは決まって木の葉だった。
何故だか一度として、花を流そうとは考えなかった。

そうして今日も、彼は赤い葉を川に流す。

「どうか、安らかに」

葉は波間に揺蕩いながら、遠く、遠く、消えていった。
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