倉庫 GC-2
□私の友達
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兵器開発部渾身の作品とも言うべきロボット「ローワン」は、基本的に自ら決断をすることがない。
彼に出来るのは事実確認と選択肢の提示だけ。
自発的に何かをしようという意思がない。
それは彼の本来の用途である操縦補助だけに留まらず、子供の遊びにおいても同じだった。
「ローワン、今日は何がしたい?」
「ダリルの好きなことをするといい」
「ボクはアンタに聞いてるんだけど」
「ダリルのやりたいことをすればいい」
「ローワンのやりたいことがやりたいの!」
「…………」
ロボットは融通がきかない。
答えを失えば沈黙が続くのみだ。
まだ学習途中とはいえ、そのマニュアル対応には子供であるダリルの頭も痛んだ。
「ねえ、僕と遊ぶの楽しくない?」
「“楽しい”という概念はまだ構築されていない。“退屈か”という意味なら、答えはノーだ」
「じゃあ決めてよ。やりたいこと」
決めろと言われたからには決めなければならない。
ローワンは無表情のまま固まると、たっぷり30秒考えた後に口を開いた。
「今日の天気は雨。室内での遊戯が好ましいだろう」
消去法で考えるつもりのようだ。
「うん、それで?」
「室内で球技は危険だ。走り回るのも推奨される行為ではない」
「じゃあボール遊びと追い掛けっこはやめよう」
一緒になって選択肢を狭めていけば、思いの外早く結論が定まっていく。
「テレビゲームは長時間の使用を禁止するよう指示を受けている。ダリルの年齢で推奨される遊戯は、かくれんぼ、もしくはトランプだろう」
ようやく二つに絞られたことで、ダリルは一気に決断を迫った。
「どっちにする?」
だが、そこからが決まらない。
「……かくれんぼは索敵能力を養う。トランプは戦略的思考を鍛える。戦闘支援装置としては、どちらも推奨できる。ダリル、この家にかくれんぼに適したスペースはあるかい?」
「あるよ」
「トランプはあるかい?」
「それもあるよ」
「では、どちらも推奨しよう」
「ダメ。ちゃんと決めてよね」
ダリルにしてみればただの我が儘だったが、それは結果としてローワンの思考を発達させていく。
「……それでは、準備も片付けも必要ないかくれんぼにしよう」
「決まりだね!なんだ、ちゃんと決められるじゃないか」
ダリルはその場でくるりと回ると、ローワンの手を引いてきゃっきゃと笑った。