倉庫 GC-2

□父の嘘
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薄暗い書斎に鍵をかけて、ヤン司令とローワンは端末を開いて向かい合っていた。

「どうだ、ダリルの様子は」

端末に映し出されるのは、まだあどけなさの残る少年の姿。
ヤン司令の問いに、ローワンは淀みなく答えを返す。

「順調に操縦者としての技術を身に付けています」
「そうか。気付いた様子は?」
「ありません」
「宜しい。お前との信頼関係も順調に築けているようだな」
「はい」

ダリルの友達になることは、ローワンに本来与えられた役割ではない。
彼の本来の目的は、ダリルをエンドレイヴのオペレータとして訓練することにある。
日々の何気ない会話から思考パターンを推察し、遊びの中で身体機能を向上させる。
始めから全て、計画に則って行われてきたことだった。
知らないのはダリル一人。
今も彼だけが、ヤンの吐いた嘘を信じ続けている。

「不服そうだな」
「推奨される行為ではないと判断します」
「と言うと?」
「隠し事は必ず当人を傷付けます。自分が密かに兵士に仕立て上げられていたと知れば、ダリルは反発するかもしれません。信頼していれば尚のこと、裏切りに感じる恐れがあります」
「それがお前の学習した結果か」
「はい」

それが命令であったとしても、事の善悪を判断することは出来る。
これまで様々な思考を学んできたローワンは、反発こそしないものの、不快感ならば抱くようになっていた。

「ではお前から伝えるか?自分の本当の目的は人間の思考を学ぶことではなく、オペレータ候補ダリルとの連携調整であったと」
「今はその時期ではないかと考えます」
「ならばいつだ?」
「既に機会は失われているものと推測されます。今伝えるならば、父親であるヤン司令の口からそう仰るべきであると」
「悪役は私に回すか」
「いいえ。親子という血縁関係が、私とダリルとの信頼よりも遥かに強いものと解釈した結果です」

偽りの友達に信頼などありはしない。
全てを明かしたその瞬間から、二人の関係が崩壊するのは明らかだ。
故にローワンは、自分では駄目だと理解していた。

「ただ従うだけのロボットではない、ということか」
「…………」

ローワンは何も言わず、ただ静かにヤンを見詰め返す。
ヤンはそれに溜め息を零し、徐(おもむろ)に端末の電源を落とした。

「よかろう。今晩、ダリルに真相を明かす」
「それは……」
「この上まだ何かあるのか?」

面倒臭い。どうでもいい。そんな感情が、ヤンの目にはありありと浮かんでいた。

「いいえ。司令のご命令通りに」

ローワンに言えることは、もはや何もなかった。
 

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