倉庫 GC-2

□彼の後悔
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ヤンの去ったリビングは、驚くほどの静けさに包まれていた。
ローワンはあれから一歩も動くことなく直立し、ダリルはそちらに凍てついた視線を向けて口を開いた。

「知ってたんだ?」

それはローワンが初めて耳にする、怒りの滲んだ声だった。

「パパが僕をエンドレイヴのオペレータにするつもりだったこと、最初から知ってたんだ?」
「ああ。知っていた」

向けられた信用と友情が、音を立てて壊れていく。これが失望なのかと、ローワンは0と1との羅列の中で考える。

「はじめから、僕を兵士にするために来たんだ?」
「その通りだ」

失われた信用に、更に嘘を重ねるわけにもいかない。
ローワンは淡々と、肯定の言葉をダリルに返した。

「司令の言葉は全て真実だ。私は未完成のOS。君をオペレータに仕上げることで、期待されたシステムを完成させる」

みるみるうちに、ダリルの目に涙が溜まっていく。

「私の調整相手にダリルが選ばれたのは、オペレータ候補の中で一番若かったからだ。心身共に未成熟であればあるほど、兵士に育て上げるのは容易い」
「……最初からずっと、僕のことをそんな風に見てたんだ」
「そうだ」

彼の言葉に偽りはない。
ただ一つ付け足すのであれば、彼でも後ろめたさや後悔を感じていたということだ。
機械の彼が自らの指名に疑問を持った。それがどんな意味を持つのか、ダリルにわかるはずもない。

「友達だって言ったのに……アンタのこと、信じてたのにッ!」

例えローワンが機械でも、ダリルには無二の友達だった。
それすらも嘘だと諒解し、彼はついに大粒の涙を零して叫んだ。

「嘘つき!」

吐き捨てた言葉と共に、ダリルは背を向けて走り出す。

「待っ――」

咄嗟にその背を追い掛けたローワンが、二階へ掛け上がるダリルに追い付く寸前、

「触るな!!」

怒りに任せて怒鳴りつけたダリルが、その拍子に足を滑らせた。
悲鳴の一つをあげる間もなく、ダリルの体が後ろに傾ぐ。

「ダリル!」

その時ローワンは反射的に、倒れ行く彼の体を両手で抱き寄せた。
手摺を掴むことなく二人分の体重を受け止めたローワンの足は、重さと衝撃に耐え兼ねて階段からずるりと滑る。
もはや機械の頭で計算するまでもない。
このまま落ちれば、機械仕掛けのローワンの体は壊れてしまう。
最も精密な部分を打ち付けて、二度と直すことの出来ないガラクタになる。
手を当てて、せめてその場所だけでも守らなければならない。
けれどローワンはダリルを抱き寄せた手を動かそうとはしなかった。
動くことも忘れたダリルを腕の中に抱え、そのまま床へと落下した。
 
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