倉庫 GC-2

□彼の後悔
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その日、ローワンは確かに恐怖という感情を抱いていた。

「ダリル、お前に話しておかなければならないことがある」

場所はリビング。
久方振りに朝食を共にしたダリルに、ヤン司令は語りかける。

「なあに、パパ?」

こてんと首を傾げるダリルは、父と食事をすることが嬉しくて仕方ないらしい。
溢れ出す幸せオーラを隠すこともせず、無邪気にサラダを頬張っている。

「来月でお前も15歳だ。そろそろ軍に身を置いてもいい頃だろう」
「……軍?パパと同じ、軍人になるの!?」
「そうだ」

ダリルにとって父は憧れだった。
その父と同じ軍人になることは、彼にとって願ってもないこと。
きっと自分は父の側に置かれ、共に戦場を眺めることになるのだろう。
そう思っていた彼は、

「お前にはエンドレイヴに乗ってもらう」
「……え?」

思いもかけない父の言葉に、フォークを握る手をぴたりと止めた。

「エンドレイヴって……あのロボットに乗るってこと……?」
「そうだ。今回、お前のために特別なエンドレイヴを造らせた。アレもお前の補助につく。きっと気に入るはずだ」

アレ、と顎で示された先には、扉の近くで直立するローワンの姿がある。
言われてようやく、ダリルは彼がロボットであったことを思い出した。
長く自分の遊び相手をさせてきたが、元来ローワンは科学者達の叡知の結晶であった。
共に生活してきたからこそ、ダリルにはローワンの成長振りがよくわかる。
彼が補佐に付くならば、確かに安心なのかもしれない。

「でも、何の訓練もしてないし……」
「問題ない。アレはずっと、お前がエンドレイヴ操縦者として充分な体を作れるようサポートしてきた」
「ローワンが?」

驚き、ダリルはローワンを見た。
ローワンは表情一つ変えず、真っ直ぐにダリルを見詰め返す。

「アレは本来、開発中の最新型エンドレイヴに組み込まれるオペレーション補助システムだった。だが如何せん融通が利かなくてな。人間の思考と上手く同調しなかった。それで、件のエンドレイヴのオペレータ候補であるお前の思考を学ばせることになった。お前はアレの知能を発達させ、アレはお前をオペレータに相応しい人間に育てる。まさに一石二鳥だ」

ヤンは何がおかしいのか忍び笑いを漏らし、どす黒いコーヒーを一口啜った。

「そう」

一方のダリルは酷く冷めた声音で、皿に残った一枚のレタスをフォークの先で突き刺した。
何度も、何度も。繊維がズタズタに引き裂かれても。
ヤンはそんな息子の様子に、全く気付く気配はなかった。
仮に気付いたとしても、おそらく彼は気に止めることもなかっただろう。

「来週には迎えを来させる。お前は荷物をまとめておきなさい」

コーヒーのカップが空になり、ヤンはすぐに席を立つ。

「パパ」
「なんだ、ダリル?」

その背に咄嗟に声を掛け、

「何でもない。気を付けて、いってらっしゃい」

けれどダリルは、何を言うことも出来なかった。
 
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