倉庫 GC-2

□僕の相棒
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「これは……」

彼の前に鎮座するのは、まだ塗装も済んでいない剥き出しのエンドレイヴ。
従来のものより一回りも二回りも大きなそれは、ダリルの目に禍々しく映し出された。

「お前のために造らせた最新型のエンドレイヴ、ゲシュペンストだ」

ゲシュペンスト。亡霊。それがこの機体の名前。

「乗りなさい」

父に促されるままに、ダリルはそのコフィンへと乗り込む。
腰掛け、システムを起動させると、青緑の淡い光と共に沢山の文字が浮かび上がる。

『オペレーションシステム起動。生体データ照合―――確認。ようこそ、ダリル・ヤン』

何処からともなく聞こえた機械音声に、ダリルははっとして顔を上げた。

「ロー……ワン?」

聞こえたそれは、紛れもなくローワンのもの。
壊れたはずの入れ物が発した、優しくも素朴な男の声。
けれど音声はダリルに答えることなく、定められた文言を彼の前に届ける。

『当機の名前はゲシュペンスト。Endoskeleton remote slave armorです』

無機質で、無感動で、どこまでも機械的な音声。

「ローワン……じゃ、ない……?」

期待から落胆へと変わったダリルの呟きに、けれども声は確かに答えた。

『久し振り、ダリル』

紛れもない、ダリルのよく知る温かな声で。

「ローワン!」

顔を跳ね上げた彼の耳に、それはかつてと変わらぬ友人として語り掛ける。

『君がこの機体に乗っていることを、非常に残念に思うよ』
「どうして!?僕のことが嫌いになったのか!?」
『そうじゃない』
「じゃあどうして!」

ダリルは彼のためのオペレータであり、彼はダリルのためのOSである。
にも拘わらず、ローワンはダリルとの再会を、そしてその搭乗を喜んではくれなかった。

『これは兵器だ。殺し、殺される、そのための機械だ。そして君は友達だ。私は友達が誰かを殺すところも、誰かに殺されるところも見たくない』

彼は0と1との思考の中で、人間のように嘆いていた。
自らがダリルを戦場へと――命の消える場へと引きずり込んだことを。
そして願った。
ダリルが自らを使う日が来ぬようにと。

「乗せたくないって、アンタがそう思ったの?」
『ローワンはそう考える。ゲシュペンストは、それを否定するだろうが』

友達として、兵器として、矛盾する二つの意思を抱えたローワンは苦笑する。
その微かな笑い声を聞きながら、ダリルは表情にうっすらと笑みを滲ませた。

「そっか……。アンタ、自分のやりたいことを決められるようになったんだ」

選択肢を並べることで精一杯だったローワンが、自らの考えで何かを選ぼうとする。
それが結果として敵わないことであっても、選択したことこそがダリルには嬉しかった。

『ダリル』

そんなダリルに、ローワンは言う。

『君の命は必ず守ろう。それが当システムの本来の役割だ。だから安心して、この機体に命を預けてほしい』

友達であろうと、兵器であろうと、彼の為すべきことは一つ。
オペレータであるダリルを無傷で戦場から帰す。それだけだ。

「信頼してるよ、ゲシュペンスト」

ダリルは冷たいモニターに指先を這わせ、小さく呟いた。

『はい、司令官』

その日、ダリルは唯一の友人を失った。
そして彼は、この世で唯一つの相棒を得た。
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