倉庫 汎用

□今日もいい天気
2ページ/2ページ

午後1時。
行く宛てがなくなり、学校に足を運んだ。
中には入れず、仕方なく校門の前で座り込む。
もうここでいい。静かに寝ていたい。
だがそうはいかないのがこの町である。

「あれ、時真君?」

名前を呼ばれて目を開けると、目の前に男の顔があった。
委員長だ。たしか鞆総逸樹といったか。

「君も部屋を追い出されたのかい?」

君も、ということは彼もなのだろう。
黙って頷くと、彼はいきなり俺の隣に腰を下ろした。

「いきなり外で自由にしろって言われても、何していいかわからないよね」

遊ぶ場所もない町だ。
いい年して公園で遊ぶ気にもなれない。
彼も街中をぶらつき、最終的にここにたどり着いたらしかった。

「でも良かった。初めて君とまともに話せたから」

思えば彼と話したことはほとんどない。
クラスメイトだというのに不思議な話だ。
かと言って、俺は別に話したいとは思わなかったが。

「しばらくご一緒してもいいかな?」

どうせ暇だ。
暇潰しくらいにはなるかと、俺は黙って頷いた。





午後3時半。
不意に鞆総逸樹がある疑問を口にした。

「網埜さんってさ、今幾つなんだろうね」

網埜優花もまた、ろくに話したことがないクラスメイトである。

「僕達の歳でもこの制服は恥ずかしいのに、あのスカート丈を着る彼女はもっと恥ずかしいんじゃないかな」

脚は綺麗だから三十路はいってないんじゃないか。
そう返すと彼は甘いなと首を振った。

「最近の女性は五十代でも美脚だったりするし、その前提は成り立たないと思うよ」

じゃあ三十路か、あるいはもっと上か。
予想外に盛り上がる話題に、俺達は夢中になっていた。

だから気付かなかった。


「誰が三十路ですって?」


鬼の形相で仁王立ちする、網埜優花の存在に。





午後4時。
半泣きで般若を巻いた俺と委員長は、公園でやっと足を止めた。

「これだから、年増のババアは」

珍しく彼が汚い言葉を吐いていると、背後の林ががさがさと鳴った。


「誰が年増ですって?」


筒鳥香奈子だった。
俺は脱兎の如く逃げ出した。
背後で委員長の叫び声が聞こえたが、聞かなかったことにした。





午後4時半。
もう人に会いたくない。
でも部屋に帰れない。
泣きたい気持ちでとぼとぼと道を歩いていると、変な動物に会った。
猫かと思ったが、どうやら犬らしい。
近付いても逃げないので、抱き上げてみた。
柔らかい体毛に心が癒される。
やはり動物はいい。
喋らない生き物はいい。
縋るように腕に力を込める。

「苦しい」

声がした。
辺りを見るが、人の姿はない。
ということは、だ。

「離せ」

喋っている。
犬が喋っている。

「おい、聞いて――」

最後まで聞かず、俺は犬を投げ捨てた。
遠くでぎゃんと悲鳴が聞こえた。





午後5時。
帰り着くと部屋は開いていた。
やっと一人になれる。
やっと安らげる。

ただいま、と扉を開く。

「遅かったな。腹が減ったぞ」

背骨と骨盤の生えた生首が、俺の部屋にいた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ