倉庫 汎用

□それすらも御褒美
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鞆総逸樹の眼鏡を割りたい。
クラスの中でその願望を抱く者は少なくない。
委員長だからという理由もあるが、眼鏡という物に対して破壊衝動を抱く者が多いのだ。
閉鎖空間でのストレスや、制約の多い日常への苛立ちのせいあもるのだろう。
ある種当然の荒み方ではあった。
だが実際に割る者はそうそういない。

「委員長、目にゴミが付いてますよ」
「え!?どこに?」
「ちょっと眼鏡を失礼して――あっ!」

更衣小夜を除いては。

逸樹の目尻についたゴミを取ろうと伸ばしたら小夜の指は、いっそ見事に思える器用さで彼の眼鏡を弾き飛ばした。
見かけによらず力の強い彼女の仕業。眼鏡は凄まじい勢いで天井に衝突し、追い討ちをかけるように床に叩き付けられた。
カシャンと虚しい音を立てたそれは、確認するまでもなくひび割れている。

「す、すみません、委員長!」

小夜は慌てて眼鏡に駆け寄り、ヘコヘコと逸樹に頭を下げた。
逸樹はそれに、常のように柔らかな微笑みさえ浮かべて言った。

「いいんだ。気にしないで」
「ですが!」
「いいんだ」

彼女から割れた眼鏡を受け取り、逸樹は愛おしそうにそれを撫でた。

「宝物にするよ」
「え?」

囁くように漏れた彼の真意を、小夜が気付くことはない。
 

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