倉庫 TOA
□奴は大切なものを盗んでいきました
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女怪盗マルクトの星。
それは魅惑のブイゾーン。
【奴は大切なものを盗んでいきました】
うしにん騒動から数日、ナタリアはどうも際どい衣装を好んで着ている節があるとルークは悩んでいた。
女性に圧倒的人気を誇るらしい女怪盗が何か彼は知らないものの、王女たる彼女が着るに相応しくない衣装であることくらいはわかる。
「なあガイ、アレ、止めなくていいのか?」
品性だの恥じらいだの、誰より敏感なはずのナタリア。それが大胆に胸元の開いた服を着ていいものか。
ガイはルークに乞われて彼女に視線をやり、大儀そうに額を押さえた。
「本人が好きで着てるんだ。俺達が口を挟むことじゃない」
「でもよー」
「ルーク……、触らぬ神に祟りなしって教えなかったか?」
彼は自分の身が可愛いらしかった。
単に女が苦手だからかも知れない。
仕方なく、ルークは次にジェイドに尋ねてみた。
「アンタは何も言わないのか?」
ジェイドはわざとらしく眼鏡を押し上げ、囁くようにルークに返した。
「あなたこそ、お腹出してると冷えますよ」
「うるせー!」
聞いた相手が悪かったと、ルークはついに自らナタリアに聞いてみた。
「おいナタリア、お前、その恰好はいいのか?」
「何がですの?」
「王族としての品位とか……」
「ルーク……、あなたまさか、私に“はしたない”とおっしゃりたいの?」
返されたのは氷点下の一睨み。
「ヨクオニアイデス」
ルークは敢え無く引き下がった。
彼が「触らぬ神に祟りなし」を体得した瞬間である。
かくしてナタリアの際どい衣装は長らく愛用され、ルークの苦悩はピオニー九世から新たな衣装を頂戴するまで続いた。
奴は大切なものを盗んでいきました
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彼女の羞恥心です