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□同じもの、違うもの
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変わってしまったと少女は泣いた。
ならば本物はどうだったというのか。
【同じもの、違うもの】
「イオンの被験者ってどんな人だったんだ?」
イオンの葬儀が終わりダアトから発つ道すがら、ルークはふとアニスに尋ねた。
「ほら、アリエッタが言ってただろ?“イオン様は変わった”って。それって、被験者とイオンが違うってことだよな」
アニスは少し怒ったようで、腰に手を当てて頬を膨らませた。
「当たり前でしょ!イオン様は被験者のイオン様とは別人なんだから!」
その返答に慌てたのはルーク。彼の質問は如何せん言葉足らずだったらしい。
「そんなことは判ってるよ。オレはただ――」
「被験者のイオン様は、私達の知るイオン様とは大分違う性格――あるいは所作をしていたのではないかと?」
「そう、それだよ!」
珍しくするりとフォローに入るジェイドに、ルークは頻りに頷きアニスを見る。
先を歩いていたティア達も、興味をひかれたのか立ち止まって彼等を振り返った。
「被験者のイオン様は兄さんの計画に賛同していたのよね?」
「フェレス島でのアリエッタの話を聞く限りでは、そうなんだろうな」
顎に手を当てガイは思案する。
「本物を滅ぼしてでも預言から逃れる……。そんな計画に賛同するような人だ。きっと凄く厳しい人なんだろうな」
「案外腹の中が真っ黒かも知れませんよ?」
意地悪くジェイドが笑えば、ルークがうんざりした表情で肩を竦める。
「ジェイドじゃあるまいし……」
「聞こえてますよー、ルーク」
「じょ、冗談だよ!!」
迂闊なことは言えない。
ルークは慌ててガイの後ろに隠れた。
盾にされた彼が何か文句を言っているようだが、ルークはもう聞いていなかった。
アニスなどはそそくさと女性陣の中に逃げ込んでいる。
「でも、今みたいにぽやーっとはしてなさそうだよね」
「導師に上り詰めた方ですものね。案外、シンクのような性格かも知れませんわ」
「病弱で好戦的なイオン様……。想像出来ないわ」
首を捻る女性陣の傍らで、ジェイド等はガイを巻き込み未だじゃれている。
時折聞こえる悲鳴も、彼女達には聞き慣れたものである。
「やっぱり私は私のイオン様が好きだなー」
「あらアニス、“私の”だなんて」
「愛ですのね!」
色の違う二つの悲鳴に、ミュウは一人首を捻るのだった。
同じもの、違うもの
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死人に口無し