倉庫 TOA

□例えばそんな愛情
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どんなに冷たい硬貨でも、温かいものは手に入る。
例えば彼等の場合。





【例えばそんな愛情】





魔物を倒して剣を納めたガイは、雪原に転がるガルドをぼんやりと見下ろしていた。
数えれば10800ガルド。なかなかの大金である。
けれどこのガルドを前にはしゃぐであろうアニスの姿はない。
彼女は今、ルークとナタリアを伴い博打に勤しんでいる。王族の金持ちオーラが金運を呼び込むのだとしきりに叫んでいたが、信憑性は木の葉より薄いに違いない。

「どうかしたの、ガイ?」

背後からティアが彼を呼ぶ。

「怪我なら私が――」
「いや、大丈夫だ」

取り繕うように顔に笑みを貼り付け、ガイは転がるガルドを拾い上げる。
硬貨は氷のように冷たかった。

「この辺りは冷えるな。寒くないか、ティア?」
「そうね……少し肌寒いけど、平気よ」
「見ていて寒くはなりますがね」

遠くからジェイドが肩を竦めて近付いて来る。
呼気で曇る彼の眼鏡に、二人は命懸けで笑いを噛み殺した。

「わ、私は平気です、大佐」
「そうですか?声が震えているようですが……」

気付いているのかいないのか。ジェイドは意地の悪い笑みを浮かべてティアを見る。
女性相手にまさか酷いことはしないだろうと一応の信頼はあるものの、ガイは終に彼女に救いの手を差し延べた。

「寒そうといえば、ルークは中に着るものでも買ってやるべきか……」

その一言だけで、話題はあっさりと脇道に逸れる。

「確かに一番寒そうですねぇ。半袖に臍出しですし」
「お腹が冷えないのかしら?」
「だろう?」

ティアは肩を出しているが、露出自体はそう多くない。分厚い軍服を纏うジェイドは勿論のこと、アニスやナタリア、ガイもそれなりに着込んでいる。ミュウに至っては全身毛皮で被われている。
ルークだけが明らかにおかしいのだ。

「ずっと屋敷にいたから、これまではあの服でも問題なかったんだ。それが今は雪国だからなぁ……」
「馬鹿は風邪をひかないと言いますが、腹を壊さないとは言いませんしねぇ」
「戦闘でもあの露出は危ないわ」

三人はそれぞれルークを思い浮かべ、同じ結論に至る。

「仕方ありません。彼には新しい服を用意しましょう」

頷き、ガイは手の中の硬貨をジェイドに渡した。手に入れたばかりのそれはいつの間にか、ガイの体温で僅かに熱を保っていた。



宿に戻ると、ナタリアの姿があった。
アニスとルークはスパに居ると彼女は言う。

「皆さんも汗を流してはいかが?未だ夕食には早いですし」

これは好機とばかりにガイとジェイドは顔を見合わせる。

「ではお言葉に甘えて。行きましょうか、ガイ」
「ああ」

二人は嬉々として部屋を後にし、残されたナタリアはティアに尋ねた。

「ガイは随分と大きな袋を持っていたようですけど、あれは何ですの?」

ティアは曖昧に笑った。

「あの中身は――」



数十分後、スパの男性更衣室には水着で立ち尽くすルークの姿があった。

「……俺の、服」

確かに置いた筈の一張羅が、何故か忽然と消えている。
否、それだけではない。
置いた筈のそこには、替わりに着ろとばかりに真新しい服が用意されていた。

大層愛らしい、トクナガの着ぐるみが。





例えばそんな愛情
――――――――――
彼は水着を選んだ

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