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□俺が俺であること
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自分が一番よくわかってる。
俺が、俺でないこと。





【俺が俺であること】





師匠を倒して、外殻大地を降下させて、俺はもとの牢獄に帰った。
初めて外に出た時は、はやくこの家に帰りたかった。
俺の家に、帰りたかった。
でも今は怖い。
この家に居るのが、怖い。


「ルーク様、レプリカなんですって」

俺の目に入らない場所で、使用人が噂しているのは知っている。

「暴れたりしないかしら……」

「帰ってこなくてよかったのに」

得体の知れないレプリカという存在。
それが怖いのはわかってる。

俺だって、昔なら悪態を吐いてたんじゃないかと思う。

どうしてあんな、得体の知れないものを家に入れるんだって。

だから使用人を責めるなんてしない。
でも時々、どうしようもなく悲しくなる。


「ル、ルーク様!おは、お、おはよう……ございます……」
「……ああ、おはよう」

泣きそうな顔で、震えながら頭を下げる使用人。
警戒しているのか、怖がっているのか、緊張しているのか。俺は馬鹿だからわからない。
精一杯笑ってみても、それは気味の悪い薄ら笑いに見えるかもしれない。
どう伝えれば俺という――レプリカという存在をわかってもらえるだろう。

いや、わかってもらっていいのだろうか。
俺はルークじゃなくて、俺のせいでアッシュはルークでいられなくなって……。

「ご主人さま、どこか痛いですの?」
「大丈夫だよ」
「でも……」
「大丈夫だって言ってるだろ」
「……みゅう」

いつだってそばにいてくれるこの獣は、アッシュじゃなくて俺を見てくれる。
それが嬉しくて、辛い。

「なあ、ミュウ」
「はいですの」
「俺は――」

俺は何だろう。
俺は誰だろう。

聞いたってミュウにはわからないのに。

「俺は、お前のご主人様でいいのかな」
「ミュウのご主人さまはご主人さまだけですの!ミュウはご主人さまがいいですの!!」

憤慨した様子で、ミュウは足元でぴょんぴょん跳ねた。

「そっか」
「そうですの!」

俺が誰なのか、まだ俺にはわからない。
だけどミュウの主人である俺だけは、間違いなく俺だから――。

今は、それでいい。

「よし、中庭で遊ぶか!」
「遊ぶですのー!」

それでいいんだ。





俺が俺であること
――――――――――
答えはいつも近くにある

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