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□空に溶けた紅蓮
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風に舞い散る火の粉のように、それは儚く、鮮やかだった。
まるで彼の生き様のように。





【空に溶けた紅蓮】





長いこと一緒にいると、他者に対する癖を持つことがある。
俺の場合、その相手はルークだった。
真っさらなカンバスのような彼を育てていく過程で、泣きじゃくる彼を宥めすかすとき、よく彼の髪を弄っていた。

「うあああん、なたりあのばかあああ」
「バカとは何ですの!?キムラスカの王族が擦り傷程度で情けない!」
「まあまあ。ルークもほら、もう痛くないから、な?」

撫で付けてみたり、結んでみたり、時にはぐちゃぐちゃに掻き回したり。
それは彼の機嫌を直すのに大いに役立ち、今では不機嫌な彼を宥めるときの俺の癖になっていた。





ルークは歳の割に子供っぽい性格をしていた。
否、実年齢ならまだまだ子供なのだから仕方ないことではあったのだ。
けれどそな事実を知った彼は、その歳に甘んじるどころか無理に大人びていった。
僅か7歳の子供でしかない彼は、その幼く無垢な心が故に取り返しのつかない罪を犯した。
自業自得というにはあまりに理不尽な罪。その責任の一端は確かに俺にもあったはずなのに、それを自覚した時、既に彼はそれを一身に背負う覚悟を決めてしまっていた。
定められた運命と、大人達の目論見に嵌められたと知って尚、それを行ったのは間違いなく自身なのだからと。
それでも時折、彼はその苦しみを表に出す。

「違う……いやだ……。師匠……そっちは……行きたく、ない……」

本人は隠しているつもりなのだろうが、夜中にうなされる姿は同室になった誰もが目にした光景だった。
慰めようと、差し入れた手に掛かるはずの長髪はもうない。
彼の幼さと、甘さと、生への執着と共に切り捨てられてしまった。
それは彼にとって、過去の自分との決別だったのだろう。
一度全てを失った彼の、新たな旅立ちの証だったはずなのだ。


なのに――


「帰って来いって、言ったじゃないか」


再びあの紅蓮の髪が、かつてのように風にたなびくほどの長さに伸びることはない。

「馬鹿野郎……」

永遠に、ないのだ。





空に溶けた紅蓮
――――――――――
刹那に輝く、彼の一生

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