倉庫 GC
□親馬鹿
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「ローワン!」
突如、談話室の扉が弾け飛ばんばかりに開かれた。
「少尉!」
現れたのは他でもない、ローワンに残業せざるを得なくなったそもそもの要因たるダリルである。
「なんでこんな所に………。訓練は?」
慌てて立ち上がるローワンにつかつかと歩み寄り、ダリルは一喝する。
「今何時だと思ってるのさ!そんなもの、もうとっくに終わってる!」
「そ、そうか。じゃあもう部屋に戻っても―――」
「はあ!?」
ただでさえ不機嫌だったダリルの顔は、彼の返事に更に険を増した。
「今日1日大人しくしてたらご褒美に夕飯奢ってくれるって約束、まさか忘れたの!?」
「え?あ……ああ!」
完全に失念していたらしく、ローワンは困ったように頬を掻いた。
「悪い、少尉。今日はちょっと都合が―――」
始末書を書いてしまわないことには、明日からの仕事にも支障が出る。何より、破損した端末の替えを支給してもらえない。
けれど嘘界は、そんな彼の背を叩いて気楽に笑った。
「いいじゃないですか。行ってらっしゃい」
「嘘界少佐!?」
ローワンは目を剥いて振り返る。
「大丈夫。私が上手く言っておきますよ」
「ですが!」
「私の権限なら使っても問題はないでしょう?それにこれは、私からのご褒美にということで」
君もお腹が空いたでしょう、と嘘界は彼の背をぐいぐい押す。
「ほら、早く!僕もう空腹で死にそうだよ」
「少尉もああ言っていることですし、行ってあげてください」
二人に急かされ、ローワンは渋々、握っていたペンを机に置いた。
と―――
「あ、その前に」
嘘界に呼び止められ、彼は踏み出した足を止める。
「我が子を可愛がるあまり、周りから愚かに見える言動をとること。四文字でなんと言うでしょう?」
「クロスワードですか?」
首を捻るローワンに、嘘界は誤魔化すように音をたてて携帯端末を閉じた。
「なんでもありません。行ってらっしゃい」
「はい……?ありがとうございます、少佐」
礼もそこそこに、ローワンはダリルに腕を引かれ談話室を後にする。
そんな二人を見送り、嘘界は複雑な表情でふっと息を吐いた。
「甘いですねえ、私も」