倉庫 GC
□君が守ってくれるから
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真っ白な壁と天井に囲まれて、蒼白な顔をしたローワンは横たわるダリルの手を握り締めていた。
咄嗟にベイルアウトを作動させた彼は、すんでのところでどうにかダリルの命を繋ぐことに成功した。しかし人の反射速度の限界か、僅かに間に合わなかっただけの衝撃はしっかりと操縦者に返ってきた。
「無茶ばかりして……」
コックピットにぐったりと横たわるダリルを目にしたとき、ローワンは心臓が止まる思いだった。
メディカルルームに運び込まれてから無事の報せを受けるまでの間、どちらが怪我人かわからない顔色をした彼に、衛生兵は何度も気遣うように顔を出しては去っていった。
その十数分後、軍医から「損傷のショックで気絶しているだけ」との報告を受けても尚、彼の顔に血の気が戻る様子はなかった。
昏昏と眠り続けるダリルの前髪に指を潜らせ、ローワンが何度目かになる溜め息をこぼした頃、彼はようやく目を覚ました。
「………シュタイナーは?」
寝惚け眼を瞬(しばた)かせ、ダリルのあげた第一声はそれだった。
ローワンは苦笑し、まだ眠そうな彼の頭をくしゃりと撫でた。
「逃げられたよ」
でも少尉が無事でよかった。そう続けようとした彼の胸ぐらを、ダリルは突如上体を跳ね上げて掴みかかった。
「なんで!どうして僕の邪魔をしたのさ!!」
唖然とするローワンに、更にダリルは食って掛かる。
「もう少しで取り返せたのに!どうしてさ!」
自分の身に起きたことを、ダリルは理解していなかった。
自分が間一髪命を繋いだことも、バックラッシュで気絶していたことも。
それをわかっていながら、ローワンは振り上げた手を止められなかった。
「いい加減にしろ!」
乾いた音をたて、その手はダリルの頬を張った。
「死ねばよかったのか。あの時死んでいればよかったのか!」
突然のことに毒気を抜かれた彼の胸ぐらを掴み返し、ローワンは叫んだ。
「どれだけ心配したと思ってるんだ!」
エンドレイヴは決して安全な乗り物ではない。一歩間違えば死ぬことも有り得る。その恐ろしさを、ローワンは嫌と言うほど経験してきた。
「心配させないでくれ……」
ダリルの胸に額を預け、消え入りそうな声で彼は言った。
「頼むから、無茶をしないでくれ、ダリル」
当のダリルはしばらく呆然と彼の頭頂部を見つめ、不意にふっと笑った。
「大丈夫だよ。だって――」
君が守ってくれるから。