倉庫 GC
□ささやかな復讐
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とある喫茶店にて。
約束の時間を一時間ほど過ぎたにも関わらず、嘘界はのんびりと待ち合わせの場所へ姿を見せた。
「お待たせしてすみません」
口先では詫びの言葉を告げながら、彼の手ではしっかりと携帯端末がキータッチの音をこぼしている。
それでもローワンは一時間待たされたとは思えない清々しい笑みで、嘘界に緩く手を振る。
「お疲れ様です、少佐」
嘘界はやはり端末を弄る手を休めず、画面に顔を向けたまま彼の正面に腰かけた。
「ずいぶんと女性の多い店ですね」
言いながら、ローワンは喫茶店のメニューを差し出す。
「スイーツの店に一人で入るなんて、生まれて初めてでしたよ」
「好きなんです、甘いもの」
「コーヒーにも、砂糖とミルクをたくさん入れておられましたね」
「苦いものは苦手でしてね」
「へぇ……」
ローワンからの初めての生返事に、嘘界はようやく端末から顔をあげた。
「意外ですか?」
「いいえ」
否定するローワンの顔は、何故か暗い好奇心に満ちていた。
訝る嘘界に含み笑いを返し、ローワンは不意に近くの店員に声をかけた。
「あ、すみませーん!コーヒー2つ、ブラックで」
「 」
唖然とする嘘界を顧みた彼の顔には、寒気がするほど優しい笑みが張り付いていた。
(ささやかな復讐)