倉庫 GC

□軍人と海
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「海に行こう!」

始まりはその言葉だった。



新しい上司ダン・イーグルマンの下に移動させられた三人は、初仕事を見事失敗し最悪の出だしを飾った。
花火くらいにしかならなかったドラグーンの経費はもちろんタダではない。そのお値段、一発で数億円。それを弾切れするまで打ち続けたのだから、最終的な額などゼロの数だけ涙が出るというものだ。
その不名誉な報告をまとめていたローワンは、暢気な上司のまたしても無茶苦茶な発言に仕事の手を止めた。

「ミスター・ダン、今なんと?」

きっと聞き間違いだ。そうに違いない。そう願わずにはいられなかった彼だったが、現実はどこまでも非情だ。

「だーかーら、海だよ、海!夏と言えば海と相場が決まっているだろう!」

鬱陶しいほど輝く笑顔に、指先で端末を弄んでいたダリルは心底嫌そうな顔でそっぽを向いた。
同じくその場でクロスワードに夢中だったはずの嘘界に至っては、既に姿が見当たらない。

「いきなり海と言われましても……」
「もちろん遊びに行くわけじゃないぞ。仕事の一環だ」
「はあ」

仕事と言われれば無視するわけにもいかない。渋々ローワンはダンに向き直る。その彼にだけ届くような小さな声で、ダリルは吐き捨てるように呟く。

「また善意の市民から通報でもあったわけ?」

苛立たしげに床を踏み鳴らす彼の忍耐の限度を推察し、ローワンは急いで本題へ入る。

「それで、何の任務でしょう?」

するとダンは指を鳴らし、ローワンを指差して片目を瞑った。

「親睦会さ!」

だんっとダリルが机を殴るが、構わずダンは言葉を続ける。

「前回僕達は不覚にも悪に敗れた。その理由を考えてみたんだ。そして気付いた。僕達に足りなかったのは他でもない、結束だ!」
「………はあ」
「考えてもみろ。僕達はあの日初めて会ったんだ。互いの実力も特性も理解していなかった。だからまずはお互いを知り、結束を強める。それが大事だと気付いたのさ!」

最もらしいことを言っているつもりなのだろうが、聞かされる側の二人は顔を見合わせてひっそりと溜め息を吐いた。

「それならわざわざ海に行く必要はないのでは?」
「親睦会でしたら、私が近くの居酒屋を手配しますが」

何が悲しくて男だらけで海になど行かなければならないのか。特にこのむさ苦しいアメリカンなノリの上官となど、行けばどんな目に遭うかわかったものではない。故に必死に海行きを回避しようとするダリルとローワンだったが、

「男は海に抱かれて大きくなるのさ!」

常識の通じる相手ではないことを、彼等は完全に失念していた。
 
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