倉庫 GC

□笑って許して
2ページ/9ページ

不本意にも人捜しに駆り出され、ダリルがまず向かったのは当人の部屋だった。
寝坊したならば、まだこの中で惰眠を貪っている可能性が高い。
彼は扉の前で一呼吸すると、右足を軽く引き、扉に向かって思い切り振り抜いた。
ドォンと大きな音が響き、近くにいた数人の職員が何事かと彼を見る。
それらの視線に気を止めることもなく、ダリルはもう一度扉を蹴り飛ばし、中にいると思われるローワンに叫んだ。

「10秒だけ待ってあげるよ!それまでに出てこなかったら、この扉壊すから!」

鍵を借りてくるという発想が彼にあるわけもなく、周りの職員は巻き込まれないようにと遠巻きに様子を見守る。

「いくよー。10、9、8、7」

扉が開かれる気配はない。
中にいないのか、それともダリルの剣幕に恐れをなして縮こまっているのか、皆に窺い知ることは出来ない。

「6、5……。遅い!」

カウントダウンの途中にも関わらず、ダリルは大きく助走をとるや否や、一切の躊躇もなく扉にタックルをかました。
木の折れる痛々しい音と共に、扉はドアノブを壁面に残して陥落。木片を辺りに散らしながら、勝者たるダリルに道を開いた。

「僕を待たせるなんていい度胸してるね」

靴を踏み鳴らし、勝者は室内を蹂躙していく。
おっかなびっくり事態を見守っていた職員達も、好奇心に負けて我先にと部屋の中を除き込む。
決して広くはない室内は、きちんと整理されて清潔感に溢れている。
それはもちろんベッドもそうであり、故にダリルは落胆した。

「……いない」

扉を破壊してまで押し入った室内に、探していた人物の姿はない。
整えられたシーツと、片付けられた食器と、どこにも見当たらない制服。
これらを総合して考えると、ローワンは既に出勤したものと答えが出る。
それではローワンはどこへ行ったのか。
ダリルは頭を抱え、壊した扉をそのままに次の場所へと歩き出した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ