倉庫 GC
□笑って許して
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ある朝のことである。
携帯端末を片手にいつものように職場に足を運んだ嘘界は、いつもとは違う風景にクロスワードを解く手を止めた。
「おはようございます、少尉」
「……オハヨウゴザイマス」
「珍しいですね。君一人ですか」
毎朝誰よりも早くここを訪れ、後から来る嘘界やダリルのためにコーヒーを用意してくれるローワンの姿が、今日に限って見当たらない。
「彼は寝坊ですか?」
「さあ、どうでしょう」
非番でないことは昨日確認しているため、本来ならこの場にいて然るべきだ。
ダリルの言葉から推察するに、手洗いに外れているわけでもないらしい。
嘘界は暫く思案した後、自分の席に腰を下ろした。
「では少尉、捜しに行ってくれますか」
「はあ!?なんで僕が!」
即座にダリルが食って掛かる。
けれど嘘界はそちらに一瞥もくれず、片手で携帯端末を弄りながらモニターのスイッチに手を伸ばす。
「私は構いませんが、彼がいないことにはエンドレイヴは動かせませんよ。例えシミュレーションテストでもね」
何かと暴走しがちなオペレーターであるダリルに、上層部はストッパーとしてローワンをあてがった。作戦行動から普段の業務に至るまで、常に目つけ役として目を光らせる義務がローワンにはあった。
それは同時にダリルへの制約でもあり、備品の破壊や職務放棄を出来得る限り防ぐためにもその存在は必要不可欠であると処断された。
故にエンドレイヴに乗るだけでも、彼の目が届いていなければそれは許可されない。
「まったく……」
駄々をこねても規則は規則。賢明にもそれを理解したダリルは、文句もそこそこに重い腰を上げた。
「見付けたら一発殴ってやる」
毒吐きながら部屋を出ていくダリルに、嘘界は一人ひっそりと笑った。