倉庫 GC
□キッチン交響曲
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「少尉、今日の夜は空いてるか?」
午後3時。
いつもと変わりなくエンドレイヴの調整を行っていたダリルに、ローワンは突然そう尋ねた。
ダリルは端末から顔を上げ、怪訝な顔をして彼を見る。
「何か用?」
「この前のスパゲティのお詫びに、今度は郷土料理をご馳走しようかと」
スパゲティと言われ、ダリルは先日の酷い食べ物を思い出す。
ケチャップをかけた焼きそばならばまだ食べられたものを、練乳を大量に絞り出したあれは頭のおかしい食べ物であった。
そんな料理を作るローワンが、またしても料理をご馳走しようと言い出すのだ。当然ながら、返事は決まっている。
「断る」
間髪入れず拒否したダリルに、しかしローワンは信じられないと言わんばかりの顔で彼を凝視する。
「そう言わずに!リベンジさせてくれよ、な?」
「何がリベンジだよ!食べ物出てこないじゃないか!!」
ローワンの作る料理は美味しくない。
はっきり言えば、吐くほど不味い。
だが一番の問題は、彼の料理の腕ではない。
「大丈夫。私の郷土は私にも優しい簡単な郷土料理を有しているんだ」
自分の料理の腕が、難易度に関わらず壊滅的であることを自覚していない点なのだ。
「……参考までに聞くけど、その郷土料理って?」
「フィッシュ&チップス」
「揚げるだけならバカでもできるって?」
「バカはないだろう」
イギリスの名物料理、フィッシュ&チップス。魚と芋を揚げるだけの、比較的易い料理だ。下手なことさえしなければ、まず見かけはまともに出来上がるに違いない。
「……いいよ。少し興味があるし」
「フィッシュ&チップスに?」
「どうしたらあんなクソ不味い料理が出来上がるのかに!」
あの味がどうやって完成するのか、ダリルも興味がないわけではない。
かくして好奇心に流された彼は、ローワンのリベンジに付き合うこととなった。