倉庫 GC
□レトリック
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その頃空港では、葬列の先頭で花輪を抱えたローワンが棺に頭を垂れていた。
黒く輝く棺の中には、死化粧を施され安らかな顔を造られた男が眠っている。
もし今息を吹き返したなら、この男は自分達にどんな言葉をかけるだろう。侮蔑の言葉を叫ぶだろうか。無様に命乞いするだろうか。或いは、何故と問うだろうか。
そんなもしもを想像しながら、彼は棺に花輪をかけた。
「どうか安らかに、ヤン司令」
薄く笑みを浮かべ、かけた言葉に偽りはない。
安らかに眠り、二度と目を覚まさぬように。それは彼の心からの願いだった。
嘘界と行動を共にするようになって以来、彼はダリルの面倒をみることがほとんどだった。
“皆殺しのダリル”と称されるだけの残虐さは確かにあった。癇癪を起こした彼に何度備品を壊されたか知れない。
それでもローワンには、怒るより先に憐憫の情が湧いたものだった。
ダリルはあまりに子供だった。
愛情に飢えた、大きな子供だったのだ。
「あなたはきっと、自分が死んだ本当の理由を理解できないのでしょうね」
与えられるべき愛情を与えなかったのは誰か。
自分を殺す人間が息子であった意味を、棺に眠る男が知ることは永遠にない。
「私が命じたんですよ、司令」
棺の隅に爪を立て、ローワンは男の亡骸に囁いた。
「あなたを殺せと、私がダリルに命じたんです」
隠しきれない嘲笑を、伏せた顔に滲ませて。