倉庫 GC

□炬燵と蜜柑
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冬といえばこたつ。
それは日本の常識。
それは日本人だけに飽き足らず、外国人までもを魅了する。

『8時45分になりました。地域のニュースをお伝えします』

ある冬の夜。
嘘界とダリルはこたつに胸まで潜り込み、まったりとテレビを眺めていた。

「……蜜柑取って」
「自分で取ってはいかがです?」
「アンタが一番近いだろ」
「足が痺れてしまいました」
「嘘くさっ」

足を蹴飛ばそうとしたダリルだったが、上手く避けられてしまった。
テレビからは依然として、平淡なアナウンサーの声が響いている。

『昨夜10時頃、世田谷区の民家で足立一枝さん49歳が何者かに刺殺された事件で、警視庁は息子で自営業の足立太郎21歳を殺人容疑で逮捕しました。調べによりますと、足立容疑者は昨夜自宅のリビングでテレビを見ていたところ、父親の一郎さんに蜜柑を取って来るよう言われたことに腹を立て、台所の包丁で刺殺しようとしたところを母親の一枝さんが発見。一郎さんを外へ逃がし足立容疑者の説得を試みた一枝さんの、腹部等を刺して死亡させたものとみられています。足立容疑者は取り調べに対して「私がやりました」と容疑を認めており――』

「…………」
「…………」

二人は言葉もなく顔を見合わせる。

『――する方針です。次のニュースです。受験シーズンを目前に控え、浅草の――』

盆に三つの湯呑みを載せ、ローワンがこたつまでやって来る。

「お茶入りましたよー……って、二人して何変な顔してるんです?」

二人は目をぱちくりさせ、妙な顔をしてそっぽを向いた。

「いや、蜜柑が」
「蜜柑殺人事件です」
「?」

何を言っているのか、ローワンにはわからない。

「蜜柑食べるなら剥きますけど」
「……僕いらない」
「私も結構です」
「そうですか。あ、お茶どうぞ。ダリルも」
「ありがとうございます」
「ん」

ローワンは二人にそれぞれ湯呑みを渡し、自分もこたつに足を入れる。

『続いて、気象情報です。明日は全国的に冷え込みが厳しく、東京都、平野部でも雪の積もるおそれがあります』

「雪かー」

お茶を一口嚥下し、ダリルはほっと息を吐く。

「今年に入ってから初めてですか」
「スノーマンでも作りましょうか」
「ガキじゃあるまいし」
「……………」
「……………」

ずずずっと、嘘界が音を立てながらお茶をすする。

『路面や水道管の凍結にご注意ください。続いて週間天気予報。明日から水曜にかけては強い寒波の影響で――』

「……トイレ行きたい」
「行けばいいだろう?」
「こたつから出たくない」
「では私が代わりに行ってきましょう」

『地域のニュースをお伝えしました。時刻はまもなく9時になります』

冷えきった手を湯呑みで暖めながら、ローワンはぽつりとこぼした。

「なあ、ダリル」
「何さ」
「トイレ先に入られたけど、いいのか?」
「………あ」

9時を知らせる柱時計の音が、冷えた空気をぼぉんと揺らした。

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