倉庫 GC

□酷い話
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ローワンの持つダリルの印象は、言うまでもなく最悪だった。
兼ねてから噂だけは耳にしていた、折り紙つきの問題児。オペレーターとしての腕前だけは評価されているが、その人間性は酷いの一言に尽きる。
ただでさえ粗暴な隊長に振り回されていたローワンにしてみれば、ダリルを追えというグエンの指示には胃が痛む思いだった。
けれど彼も軍人だ。命令に背くわけにはいかない。
そして何より、噂の新型エンドレイヴと御対面出来るという誘惑に彼は流された。
そんな自身の愚かさを、彼はすぐに後悔する羽目になった。


「アンタ誰?」

ダリルの彼に対する第一声は、遠慮も素っ気もない言葉だった。
彼に興味や関心があったわけではない。見知らぬ男が部隊の中に紛れ込んでいることに気が付いただけ。そんな声色だった。

「第三中隊所属、ローワン大尉だ」

彼が応じて名乗ると、ダリルはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「で、その大尉殿が第二中隊に何の用?」

隊長の指示で見張りに来ましたなど、馬鹿正直に答えることもない。
ローワンは素知らぬ顔で、噂の新型エンドレイヴを顎で指しながら答えた。

「新型の調整と、少尉のサポートを」
「頼んでないんだけど」

拒絶の言葉は早かった。

「どうせそっちの作戦の邪魔にならないよう見張ろうって言うんだろ。安心してよ。僕は狩りを楽しみたいだけだからさ」

だからさっさと消え失せろ。紫の瞳はそう物語っていた。
だがローワンとて、はいそうですかと戻るわけにもいかない。
指示を出したグエンは口より先に手が出るような男だ。もしのこのこと指揮車に戻ろうものなら、そこで何をされるかわかったものではない。特に今は機嫌が悪いのだ。骨の一本や二本、持っていかれる覚悟は必要になる。
避けられるならば避けたい。それが彼の本音だった。

「正直なところ、私も件の新型を――その性能をこの見たい。勿論少尉の邪魔はしないし、勝手に機体を弄ったりもしない。だから――」
「どうかここに置いてくださいって?そりゃ無理でしょ」

常識で物を考えなよ。そう言ってダリルは彼を笑った。
ローワンは何も答えなかった。
小馬鹿にするように笑う少年の目に、冷たい狂気を見たからだった。
ひとしきり笑うと、ダリルは不意に口角をつり上げて彼を見た。

「でも、そうだね。狩りに観客がいるってのも悪くない」

何か嫌な予感がしたが、やはりローワンは何も言わなかった。
それを承服したと判断したダリルは、意地の悪い笑みを浮かべて彼に囁いた。

「貸し一つ。ちゃんと返してよね」

悪魔と取引をするとこんな気分なのだろう。
ローワンは深く嘆息すると、渋々ダリルに頷いてみせた。
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