倉庫 GC

□人質交渉
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節々の痛む身体を横たえ、ローワンはゆっくりと自分の周囲を見回した。
彼が居るのは薄暗い倉庫のような空間。
積み上げられた段ボールの隙間からうっすらと外の光が入ってくる。
壁際には銃を手にした男が二人、時折彼の方を見ながら立っている。

グエンの指揮の下、六本木フォートで葬儀社を屠らんとした第三中隊はまんまと返り討ちにあった。
ローワンの乗っていたオペレート指揮車は急襲を受け、同じく乗車していたダリルとその部下もろとも葬儀社の捕虜となった。
現在この空間に在るのは彼一人。ダリル達の安否はわからない。
もう殺されてしまったのか、これから殺されてしまうのか。
ここから生きて帰るという未来は、彼には微塵も想像できなかった。

出来ることならもっと長生きがしたかったと、彼は諦めの混じった吐息を溢す。
そのとき不意に、壁際の男の一人が彼の前に膝をついた。

「おい」

前髪を乱暴に掴み上げられ、ローワンは顔を顰める。

「貴様、日本語はわかるか」

彼は答えなかった。
代わりに男の顔に唾を吐きかける。

「こいつ!」
「待て!ガイの指示を忘れたのか!」

咄嗟に男はローワンを殴り倒し、慌ててもう一人の男が制止する。

「捕虜の命は損なうな。取引に支障が出る」
「殺さなきゃ平気だろ」
「舌でも噛まれたらどうする。靴下でも噛ませておけ」

死なれては困るということは、ダリル達もまだ無事なのだろう。
だがそれも残りわずかの命であると、彼は諒解していた。

「無駄だ」

ひび割れた眼鏡の奥で、ローワンは男達を睨む。

「軍はテロリストと取引などしない。我々の命と引換に貴様達が何かを得ることはない」

金か、人か、情報か。テロリストが何を求めようと、人質たる兵士に取引を叶えるだけの価値はない。
要求も脅迫も、軍は黙殺することだろう。

「生き恥を曝すつもりはない。殺せ」

後ろ手に縛られた拳を握りしめ、ローワンは絞り出すように言う。
けれど男達は、下卑た笑いを浮かべて互いの顔を見合わせた。

「おい、聞いたか」
「殺せだってよ」
「流石、軍人様はご立派でいらっしゃる」

その瞳に狂気が宿るのを、ローワンは自ずと覚った。

「だがそいつは」

男達は勢いよく足を振り上げ、

「聞けない相談だな」

ローワンの腹を蹴り飛ばした。

 
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