倉庫 GC

□土産話を聞かせよう
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ダリルが偵察から帰ると、いつも出迎えに来るローワンの姿がなかった。
頼んだわけでもないのにお節介にも現れる彼を、思えば今日は一度も見掛けていない。
小さくなった林檎飴を口に含み、ダリルはつまらなそうに眉を寄せた。

「なんだよ。いつもは勝手に来るくせに」

いつもと違う状況と、それに違和感を覚えた自分自身に、ダリルは苛立たしげに串を噛んだ。

アンチボディズがクーデターを成功させて二週間。ダリルの預かり知らぬところで部隊は再編され、役職も大きく入れ替わった。
茎道が直に大統領になると聞いたときは、彼も腹を抱えて笑ったものだ。その茎道の抜けたアンチボディズ局長の座は嘘界へと渡り、ローワンもそれなりの役職に就いたと聞く。
平素のようにわざわざ出迎えに現れないのも、彼が多忙であるからだろう。

「土産話の一つでもくれてやろうと思ったのに」

当てが外れ、ダリルはとぼとぼと一人廊下を歩く。
高校で出会った女のことも、彼女に強いられた労働への愚痴も、果ては駄賃だと渡された林檎飴のことも。聞かせようと息巻いていた自分が、彼には滑稽でならなかった。
高揚していた彼の心は、今や木枯らしが吹くように冷めきっている。

「馬鹿みたいだ」

彼は酷く腹立たしげに、噛み締めた串を床へ吐き捨てた。
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