倉庫 GC

□素直になりなさい
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種類豊富なケーキの中から、ダリルが選んだのは苺のタルトだった。こんがりと焼けた生地の上に、潤いを演出された苺やベリーが山ほど盛り付けられている。彼はそれに恐る恐るフォークを差し込むと、不器用ながらも慎重に欠片を口に押し込んだ。

「おいしい」

向かいの席では青年が、抹茶プリンを嚥下しながらにやりと彼に笑いかける。
一人会計に走っていた少年は現在、三人分の飲み物を取りに席を立っている。
正直なところ、ダリルはこの青年と二人きりになるのは嫌だった。彼の中では青年の印象は未だ怖い恐竜。食べられるのではないかと恐れていたのだ。
一方青年はというと、その怯えに気付かぬほど鈍くはなかった。彼はスプーンの先でプリンの容器の縁をなぞると、不意にそれを置いて隣の皿に手を伸ばした。それは今席を外している少年の、店で一番安いことを理由に選んだショートケーキだった。
青年は添えてあったフォークを手に取ると、ショートケーキから苺を掬い取りそっとダリルの皿の上に乗せた。

「内緒ですよ」

フォークを立てて唇の前に翳し、彼は維持の悪い笑みを浮かべる。
ダリルはほんの僅かの間驚いた顔をしたものの、すぐに頷き返して苺を食べた。
甘酸っぱい風味が口一杯に広がり、ダリルは思わず頬を緩める。
ちょうどその頃、紙コップを三つトレイに乗せた少年が戻って来た。
少年はまっ更なショートケーキに気付くや否や、眼光鋭く青年を睨め付けた。

「誠さん」
「はい」
「苺食べましたね」

青年は肩を竦める。

「食べてませんよ」
「じゃあなんですか。苺がひとりでに消えたとでも?」
「彼が食べたという可能性もありますよ」

スプーンで指され、ダリルはびくりと肩を揺らす。
けれど少年はそちらを見ることもなく、呆れた様子で椅子に腰を下ろした。

「子供に罪を擦り付けるんですか。見損ないました」
「信用ないですねぇ」
「して欲しいんですか?」
「さあ、どうでしょう」

本当のことを言うべきか、ダリルは苺を嚥下しながら考える。
だが青年が勝手に苺を取っている以上、何のフォローにもならない。
それに何より、少年が本気で怒っていないと気付いたダリルは、二人の他愛ないやり取りを止めようとはしなかった。

「仕方ありませんね。今度私のアイマスクを一つ譲ってあげます。それでイーブンとしましょう」
「いりません」
「そう言わずに。他人の好意は素直に受け取るものですよ」
「悪意の間違いでしょう」

結局二人はダリルがタルトを食べ終わるまで口論を止めなかった。
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