倉庫 GC

□エゴイズム
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「どうですか、彼の様子は」

サーバルームに戻ったローワンに、嘘界は背を向けたまま声を掛けた。

「駄目ですね」

ローワンは彼の一歩後ろまで歩を進め、後ろ手を組んで足を止める。

「本人は殺ると言っていますが、あの調子ではまた撃てないでしょう」
「それは困りましたねぇ」

言葉とは裏腹に、嘘界の口許には笑みが浮かんでいる。
それを見定めたローワンは、僭越と知りながら口を出した。

「少尉は外した方が宜しいのでは?」
「足手纏いになる、と?」
「はい」

ダリルは強い。エンドレイヴの操縦においては間違いなく天才だ。
だが撃てないのでは、ただの大きな遮蔽物でしかない。
故に外せと進言するローワンに、「それでも――」と嘘界は言う。

「彼ほどの戦力が欠けるのは、今の我々には惜しいのですよ」
「しかし――」
「ローワン君」

咎めるような嘘界の声音が、ローワンの言葉を遮った。

「彼は殺ると言ったのでしょう?」

ローワンは直後、しまったという顔をした。

「挽回の機会は与えられるべきだと思いませんか?」
「それは……」

反論しようと開いた口は、けれど何の言葉も産み出しはしなかった。
嘘界はそれを見届け、憐れむような目をしてローワンに言った。

「あまり甘やかすものではありませんよ」
「そのようなことは……」
「また彼に殺させるのは忍びないかもしれませんが、あなたが割り切れなくてどうします?」
「…………」

二人は端から諒解していた。
ダリルが葬儀社の少女に何らかの情を持ってしまったことも、それ故に撃てなかったことも。戦闘記録を見れば誰の目にも明らかだ。
ただでさえ、彼には自らの手で父を撃たせたのだ。また彼に引き金を引かせるなど、ローワンには出来ない。
否、理由はそれだけではなかった。
引き金を引かせることを真に苦痛だと感じるのは、ダリルではなくローワンの方だ。
ローワンは自らのエゴによって、ダリルの汚名を雪ぐ機会を奪おうとした。
その浅はかな心根を、嘘界は優しい声音で叱咤する。

「彼を思うのなら、信じて支えてあげることです」

きっと彼の言葉は正しいのだろう。
ダリルがこれからも軍人として生きていくには、これは必要な壁なのだ。
それでも沸き上がる嫌悪を、ローワンは懸命に噛み殺した。

「承知しました、局長」

嘘界は満足気に、そんな彼を嗤った。
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