倉庫 GC

□エゴイズム
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葬儀社メンバーを差し出すと、愚かな学生から交渉の申し入れがあったのは先日のこと。
学生もろとも葬儀社を殺せと命じられたダリルは、何故だか引き金を引くことが出来なかった。
自ら出向いてあの様かと、笑われるだけの失態ではあった。嘘界が呆れるのも無理はない。
それでも彼には、一度言葉を交わしただけのあの少女を殺すことが出来なかった。

「らしくないな、少尉」

不意に声を掛けられ、ゴーチェの脚部で項垂れていたダリルは気怠そうに顔を上げた。
声を掛けたローワンは端末に視線を留めたまま、時折ちらりとダリルを見ながら作業を続けている。

「何か気になることでもあったのか?」
「………別に、何も」
「何もって……」

見え透いた嘘に、ローワは落胆した様子で眉尻を下げた。
それでもダリルは、彼に本意を告げる気など更々なかった。
葬儀社の女に情を移し、挙げ句殺すのを躊躇ったなど、どの口が言えるだろう。
皆殺しの名が聞いて呆れる。

「どうやって殺すか考えてたら、他の奴等が先に撃っただけだ」
「……ふーん」
「なんだよ」
「いや、別に」

何を察したのか、端末から視線を外したローワンは酷く冷めた目をダリルに向けた。

「少尉がそう言うのなら、そうなんだろうな」

突き放すような、棘のある声音だった。
ダリルは己の膝を抱え、彼の視線から逃れるように顔を伏せた。

「次はちゃんと殺るさ」

次こそは殺す。殺さねばならない。
彼は軍人で、なにより“ダリル・ヤン”なのだから。
そんなダリルに、ローワンは深々と溜め息を吐いた。

「馬鹿だな、ダリルは」
「はぁ!?」

反射的にダリルは彼を睨め付ける。
ローワンはそれに苦笑を返すと、おもむろにダリルの頭に手をやった。

「無理はするなよ」

くしゃりと髪を掻き回し、手はすぐにダリルの頭から離れた。

「それじゃ、お疲れ」

ローワンはひらひらと彼に手を振ると、そのまま踵を返して去って行く。
残されたダリルは彼の背を見送りながら、膝に顎を乗せて吐き捨てた。

「なんだよ。知った風な口利きやがって……」
 
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