倉庫 GC

□インフルエンザに気を付けろ
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日が傾き始めた頃、ローワンは夕飯の支度に取り掛かっていた。
消化のいいものをと医者に指示され、作ったのはカボチャのスープ。味の保証はないが、食べられれば問題はないだろう。

「食べられれば、な」

首を捻って寝台を顧みれば、苦し気な呼吸を繰り返すダリルの顔が見えた。
依然として熱は高いようで、時折小さな呻き声をあげている。
重傷で呻く兵士なら何度も目にしてきたものだが、それとは違った焦燥感を駆り立てられる。
まるで我が子を看病しているようだと、彼は自嘲気味に笑った。

「ローワン、水」
「はいはい」

芯の抜けた声で呼ばれ、ローワンはコンロの火を止める。

「どうだ、腹は空いてきたか?」
「んー……」
「食べられそうならスープを飲むといい。そろそろ薬も飲まなきゃならないからな」

スポーツドリンクのペットボトルを持って枕元に近付くと、ダリルはもぞもぞと布団から這い出し足を床に下ろした。

「じゃあ……食べる」
「わかった。すぐに準備する」

ペットボトルを手渡し、ローワンはぱたぱたとコンロに駆け戻る。
ほんのり漂う甘い香りに、自然とダリルは口許を綻ばせる。
どんなスープが出てくるのか。細やかな期待を抱いた彼だったが

「お待たせ」

丼に並々と注がれたカボチャのスープに、ダリルの顔はどんよりと曇った。

「…………あのさぁ」
「どうした?」
「量が……」
「ああ、食べられるだけでいい。残りはこっちで食べるから」

見ただけで満腹になりそうな丼を指し、ローワンはあっけらかんとして言う。
他人の食べ残しを食べるなどダリルには信じ難い行為だが、本人が良いと言うのなら良いのだろう。
ローワンの視線を受けながら、彼は恐る恐るスープを口に運ぶ。
直後、ダリルの顔はぱっと晴れた。

「あ、おいしい」

何の変哲もないただのカボチャスープではあったが、それが今は程好く臓腑に染み渡る。

「いけるよコレ!バカにしてたけどぜんぜんいける!」

興奮して感想を述べるダリルに、ローワンはくすくすと笑い声を溢す。

「バカにしてたは余計だ」

結局スープは半分以上残ったが、ダリルの腹は十分に満たされた。



夜、尿意を覚えたダリルは眠い目を擦りながら布団から這い出した。
時計を見ると深夜2時を過ぎた頃。部屋にはまだ明かりがついている。
そんなに仕事を課されたのかとテーブルに目を遣ると、ローワンはそこに突っ伏して寝息をたてている。
ベッドで眠ればいいのにと呆れるダリルだったが、すぐにそれが敵わないことを思い出した。
ベッドはダリルが占領しており、部屋にはソファのような布団代わりになる物もない。
ここで寝るのは必然らしい。
だが季節は真冬だ。風邪をひきかねない。

「……ばっかじゃないの」

ダリルは苦虫を噛み潰したような顔をし、ベッドから降り立った。その足で勝手に部屋のクローゼットを開け、手当たり次第に暖かそうな上着を引っ張り出す。それらを抱えてテーブルへ忍び寄り、ローワンの背に次々と引っ掛けた。

「世話の焼ける奴だ」

積み上がった衣類を前に満足気に頷き、ダリルはいそいそとトイレへ向かう。
その背後で小さなくしゃみが聞こえたが、上着が落ちる様子はなかった。
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