倉庫 GC

□忠犬と狂犬
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嘘界から通信が入ったのは、ダリルが悪態を吐きながらコクーンを降りた頃だった。

『ローワン大尉、私です。ダリル・ヤン少尉は――』

通信の内容は至って単純。
ダリルを拘束して連れて来いというもの。
エンドレイヴに乗った状態ならまだしも、生身の彼に何の用があるのか。気にはなったがローワンは尋ねなかった。
ダリルがコアを破壊したことにより、現在東京上空ではルーカサイト1が落下を始めている。
嘘界が何の策を思い付いたかは知らないが、今の彼等にはそれに賭ける他ない。
ローワンは大きく息を吸い込むと、誰にともなく声を張り上げた。

「少佐のご命令だ!直ちにヤン少尉を拘束しろ!」
「はぁ!?」

動揺は一瞬。
兵士達は一斉に走り出し、ダリルの身柄を拘束にかかった。
抵抗はあったが、多勢に無勢。
瞬く間に捕らえられ、ダリルは床に押し倒された。

「離せ!クソッ!」

無駄な抵抗を繰り返す様は憐れに思えたが、東京壊滅が迫る今は構ってなどいられない。

「落ち着け少尉」

ストレッチャーを用意させながら、ローワンは彼の前に膝をつく。

「このままでは我々は全滅だ。生き残るためにも、今は大人しく少佐の指示に従ってくれ」
「ふざけるな!」

血走った目で、ダリルは絶叫する。

「殺してやる!お前達、みんな殺してやる!」

さながら鎖に繋がれた狂犬のようだ。
ローワンは呆れたように溜め息を吐くと、未だダリルを捩じ伏せている兵士達に命じた。

「時間がない。乗せろ。少しばかり無茶をしても構わない」
「はっ」

短い返事と共に、兵士達は軽々とダリルの体をストレッチャーに乗せる。
次いで四肢が拘束され始めると、見る見るうちにダリルの表情が変わった。

「おい!?何だよこれ!」

憤怒から恐怖へ。表情を塗り替えたダリルを、ローワンは憐憫の目で見下ろす。

「大人しく従う気はないのだろう?」
「当たり前だ!」
「ならば仕方ない。なに、少しの辛抱だ」
「冗談じゃない!!」

こうしている間にも、ルーカサイトは東京目掛けて落下を続けている。
もはや猶予はない。

「聞き分けてくれ、ダリル」

なんとかダリルを落ち着かせようと、ローワンは彼の頬に手を伸ばす。
刹那、ダリルは顔を跳ね上げその手に食らい付いた。

「痛っ!」

ローワンは反射的にに手を引く。
ダリルはそれを蔑むような目で見遣り、彼を嘲笑した。

「ざまぁみろ。クソ虫が」

言い捨てると共に、唾を吐きかける。
ローワンはそれを冷ややかな目で見下ろし、言った。

「猿轡を」
 

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